「わたしたちは毎年、チャレンジとして新しい日本酒をタンク1本ずつ仕込んできました。2014年から発売したワイン酵母も、そのひとつでした。目指したのは、ひと口飲んで“美味しい”と感じてもらえる爽やかな甘酸っぱさ。水で希釈してアルコール度数を低くするのではなく、原酒のままで12度にできるだけ近づけることも目指しました」
清酒用酵母とワイン酵母の違い
日本酒の原材料は、もちろん米。当たり前かもしれないが、ワイン酵母で仕込めば、白ワインのような香味になるというわけではない。原料のブドウ自体に酸味があるワインと違って、甘酸っぱさを表現するためには、どうしても限界がある。そこで佐藤さんは、通常の日本酒で使われる黄麹に加えて、一部だけ白麹を使用。おもに焼酎を仕込む際に使われる白麹は、クエン酸を多く生成するため、柑橘類のような爽やかでくっきりとした酸味が生まれる。
「ワイン酵母は発酵の増殖が弱く、発酵の速度がやや遅めです。日本酒造りでは、麹菌の酵素の力で米のデンプンがブドウ糖に変わり、微生物の酵母がこの糖を食べて、アルコールとともに香気成分などを生成します。ワイン酵母仕込みでは、発酵前半で酵母の増殖よりも蒸し米が溶けてエキス分となるスピードが勝るため、低アルコールかつ、たっぷりと甘みなどのエキス分を含む酒に仕上がります」
ただし、米のデンプンが糖化されるスピードが速すぎると、「濃糖圧迫」という状態になり、酵母の増殖が阻まれ、死滅することもある。微生物の酵母が“飽食”で動けなくなってしまうのだ。そのため、糖化の速度と酵母の増殖スピードのバランスをうまくとる必要がある。日々もろみの様子を見て、必要に応じて「追い水」といって水分調整をするなど、細やかな管理が欠かせないという。