文=加藤恭子 撮影=加藤熊三
ワイングラスで日本酒を
一瞬、「えっ」と驚く。まるで蜂蜜のようなやさしい甘さと、爽やかな酸味。軽く冷やしてワイングラスに注げば、恍惚の美味しさ。これが日本酒!?
思い起こせば、1980年代~1990年代前半の吟醸ブームのころ。当時、バブル期の好景気に沸く日本では、ワイングラスで華やかな香りの吟醸酒を飲むスタイルが流行した。でも、当時は想像すらできなかった。こんな日本酒が誕生する日が来るなんて——。
ワイン酵母で仕込まれた日本酒
近年、あえて清酒用酵母ではなく、ワイン酵母で仕込まれた日本酒が全国的なトレンドになっている。なかでもけっして派手ではないが、小粒の宝石のような奥ゆかしい輝きを放っているのが、青森県十和田市の鳩正宗が醸すワイン酵母仕込みのシリーズ。その酒質の美しさたるや、透明感あふれる奥入瀬渓流のような十和田の風土をイメージさせてくれる。
鳩正宗が初めてワイン酵母で仕込んだ酒を頒布会で限定発売したのは、2014年2月。青森県の酒造好適米、華吹雪を55%まで削った純米吟醸タイプだった。これが好評で、2018年にはやはり青森県の酒造好適米である「華さやか」を使い、精米歩合60%の純米酒が誕生した。
どちらもアルコール度数は12度で、日本酒としては低アルコール。数値は甘口で、とくに純米酒は日本酒度-30と“超甘口”なのだが、シャープな酸味が効いているため、軽快さとすっきりとした透明感がある。アミノ酸含有量が低く、雑味のないクリアな酒質になりやすい華さやかの個性も感じられるかもしれない。
杜氏の佐藤企(たくみ)さんに、そのなりたちと狙いを教えていただいた。