※本コンテンツは、2021年6月29日に開催されたJBpress主催「第4回リテールDXフォーラム」のセッション3「アジャイル型開発で勝負するOnitsuka Tiger グローバルデジタルコマース戦略」の内容を採録したものです。
(写真左)
株式会社アシックス 常務執行役員
オニツカタイガーカンパニー長
庄田 良二 氏
(写真中央)
五反田電子商事株式会社
代表取締役
洞田 潤 氏
アドビ株式会社(写真右)
デジタルエクスペリエンス営業統括本部 リードプロダクトスペシャリスト (Adobe Commerce)
長川 将之 氏
顧客の心をつかむデジタルコマース
アドビの長川将之です。前半は、グローバルデジタルコマースをテーマにした対談を実施いたします。対談者は、アシックス オニツカタイガーカンパニーの庄田良二氏と、五反田電子商事の洞田潤氏です。
アシックスオニツカタイガーは、グローバル展開する日本発のファッションブランドです。いち早くDtoC(Direct to Consumer)を展開し、リテールの直営化を図りました。アジャイル型開発を取り入れ、急ピッチでデジタル化を推進しています。一方、五反田電子商事は、ブランド企業のグローバルDXベンダーとして、オニツカタイガーをはじめ多くの企業の海外EC展開をサポートされています。
洞田潤氏(以下、洞田氏) グローバルデジタルコマース展開では、とりあえず既存のECサイトへ出品するという企業が多くあります。確かに顧客が商品を買える環境はつくれますが、消費者のマインドの醸成にはつながりません。例えば、ショッピングセンターに、安いコモディティー商品と自社の商品を並べて置くようなものです。そうした中、オニツカタイガーは明確なデジタルコマース戦略を持ち、実践されています。
庄田良二氏(以下、庄田氏) 私たちオニツカタイガーは、かっこよさと機能性を両立するファッションブランドとして展開しており、アウトレットなど一部店舗を除いて、直営店舗で定価販売しています。価格ではなく、ブランド力や高いサービスレベルで勝負する必要があり、デジタルコマースもお客さまの心をつかむものでなければならないと考えています。
また、スニーカーではサイズやフィッティング感が重視されますが、サービスレベルが低いECではきちんと伝わらず、購入までの壁が高くなります。そこで、大切にしているのが情報の接点です。デジタルとリアルそれぞれにマッチしたコミュニケーションの方法で、さまざまな情報を不快感を抱かせることないように届けることを心がけています。特に、新規のお客さまには、直営店とデジタル領域を行き来してブランドを知っていただく、カスタマージャーニーをイメージして取り組んでいます。
アジャイル開発でクイック&ライトに立ち上げ
洞田氏 オニツカタイガーさんは、タイでは、LINEやMessengerを使ったチャットコマースを本格展開しています。さらに、チャットコマースのスタッフを店舗に常駐させ、リアル店舗とECのマージを図るなど、タイマーケットの環境にマッチしたデジタルコマースを設計されています。
庄田氏 タイのお客さまにとってオニツカタイガーのスニーカーは決して安いものではなく、購入までのフォローは欧米以上に入念に行う必要があります。デジタルプロモーションに加え、デジタル接客も活用してコミュニケーションの回数を増やすことに努めています。また、決済方法にも気を付けています。グローバルでは、その国々で普及している決済方法を導入しています。
洞田氏 おっしゃるように、タイのローカル要件に見事に対応されています。グローバルデジタル化では、まずブランドと商品の特性に合わせたプロモーションの選択、販売チャネルの選択、ECサイトづくりが大切です。同時に、その国の商習慣や所得水準、気候、マーケット環境に合わせたローカライズも必要です。さらに、国によってビジネス規模、投資スケール、Webインフラやソーシャルメディア環境も違います。それらの潮流を読みながら、適切なものを早く安く構築することが重要だと考えます。
庄田氏 オニツカタイガーでは、シンプルに、アジャイルの概念を念頭に置いたデジタル化を進めています。変化の激しい世界のファッション業界でデジタルコマースを進めるに当たって、アジャイル開発で各国の習慣に合わせてクイック&ライトに立ち上げ、走りながら成長させています。
一方で、お客さまが複数の国を行き来することも想定し、グローバルでカスタマーデータの管理やユーザコミュニケーションができるように、ベースとなる基盤は開発スピードやローカライズを阻害しない範囲で共通化しています。