「日産フォーミュラE」チームは、初のホームレースとなる東京大会でポールポジションと2位表彰台を獲得した

誰のためのレースなのか?

 いっぽう、こうした声とは対照的に、決勝レースをグランドスタンドから観戦していた私の周囲では、20〜30代と思しき男女が大盛り上がりで、自分たちが応援するマシンが追い越す素振りを見せるたびに「キャーッ!!」「ウォーッ!」「ヤバイ!!」と大歓声を挙げていた。つまり、彼らは目の前で繰り広げられるレースを大いに楽しんでいたのである。したがって、フォーミュラEの捉え方は、観客の「年齢」や「既存レースへの習熟度」によって、180度異なっていたといっても間違いではなかろう。

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表彰台に向かう「日産フォーミュラE」チームのオリバー ローランド

 別に、どちらの見方が「正しい」とか「間違っている」ということはなく、それぞれに「正しく」また「正解」なのだろうが、ここで改めて注目すべきは「フォーミュラEが誰のために開催されているのか?」という点にある。

 フォーミュラEが開催される究極的な目標は、電気自動車の認知度向上にあると私は捉えている。つまり、観客に「電気自動車って魅力的だなあ」「次は電気自動車が欲しいなあ」と思ってもらうことが、フォーミュラEに参戦する自動車メーカーにとっては最大の関心事なのである。

 したがって、旧来のレースファンの意見は、必ずしも重要ではない。大切なのは、今後、電気自動車を買うことになるかもしれない若い人々にアピールすることなのだ。そうした観点と、私が観客席で体験したことを照らし合わせれば、フォーミュラE東京大会は大成功だったと評価していいように思える。

 事実、フォーミュラEに参戦するポルシェの日本法人代表を務めるフィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ氏は「電動化を進めるポルシェにとってフォーミュラEはとても重要。来年以降はさらに力を入れていきます」と言明。フォーミュラEをプロモーションとして活用する意図を明確にした。同様の意向は、ジャガーを販売するジャガー・ランドローバー・ジャパンのマグナス・ハンソン代表取締役社長からも、マセラティ・ジャパンの木村隆之代表取締役からも感じ取ることができた。

東京大会で優勝したのはMaserati MSG Racingのマクシミリアン・ギュンター

 そして、それは開催地となった東京都の小池百合子知事にとっても同じことだったようだ。その証拠に、東京都とフォーミュラEの間で今後5年間にわたる開催契約が結ばれたとの噂が囁かれていたほか、今年は8000〜1万席ほどだった観客席を来年は3倍程度まで拡大するとの計画も耳にした。私の目には、当初はフォーミュラEの開催に懐疑的だったと東京都側も、今回の成功を目の当たりにして、その可能性を確信したように思える。

写真:Formula E
左からNATALIE ROBYN(FIA CEO)ALBERTO LONGO(Formula E Co-Founder & CCO) ALEJANDRO AGAG(Formula E Co-Founder & Chairman)岸田文雄(内閣総理大臣)小池百合子(東京都知事)JEFF DODDS(Formula E CEO)ROBERT REID(FIA Deputy President for Sports)坂口正芳(JAF 会長)