好奇心がハッサンを速くした

シファン・ハッサン(オランダ)

 2017年のドーハ世界選手権で1500mと10000mの変則2冠に輝き、2021年の東京五輪は5000mと10000mで金メダル(1500mは銅メダル)。〝トラックの女王〟と呼ばれたハッサンは、昨年4月のロンドンで初めてマラソンに挑戦すると、2時間18分33秒で優勝した。その後、再びトラックに舞い戻り、8月のブダペスト世界選手権は3種目に出場。10000mはゴール直前に転倒して11位に終わったが、5000mで銀メダル、1500mで銅メダルを獲得している。

 トラックとマラソン、トレーニングの違いをハッサンはどう感じているのだろうか。

「トラック種目の練習はきついですけどすぐに終わります。一方、マラソンは持久力が必要です。2~3時間我慢強く走らないといけません。そこがまったく違います。ロンドンマラソンの後はメンタルがちょっときつかったですね。トラックに戻って、心身ともに疲れました。トラックからマラソンに行くのは簡単かもしれませんが、マラソンからトラックに戻るのは難しいです」

 ハッサンもキプチョゲ同様に「走る」以外のトレーニングを積極的に取り入れているという。

「週に2回はジムに行きますね。アメリカにいるときはロッククライミングもやりますよ。陸上競技はトラックで800m~10000mをやりますし、マラソンにも挑戦しました。今回もリカバリーしたらトラックに戻りたいと思っています。トラックを全力で走るとハッピーに感じます。いろんなことをミックスするのが楽しいので、ひとつにフォーカスできないですね」

 マラソンでハッサンの相棒になっているのが、アルファフライ 3だ。「私のために作られたシューズかと思うくらい、最初に履いたときから大好きになりました」というほど絶賛している。

「ロングランを走った後も、次の日にイージーランができるほどリカバリーが早かった。エネルギーリターンが高いだけでなく、脚へのダメージも少ないと感じています」

 寡黙なキプチョゲとは対照的に、ハッサンは明るく、饒舌だった。エチオピア出身の彼女は難民として、15歳でオランダに到着。そこからシンデレラストーリーを描いて、長距離界のスター選手になった。そして走ることから多くのことを学んだという。

「私はランニングから辛抱強さをもらいましたね。やり続けた先に何があるかわからない。何があっても希望を失わず、常に努力を続けることが大切です」

 五輪や世界選手権で何度もファンを驚かせてきたハッサン。彼女の持つ「好奇心」が、様々なチャレンジを可能にしているようだ。

「人間は自分の思っているより、もっといいものですよ。好奇心があれば、いろんなことにトライできる。そして新たなことを始めると、もっと知りたくなるし、本当に可能性があると思っています。好奇心があれば楽しいことが見つかりますし、今日はうまくいかなくても、明日は明日の風が吹く。失敗を恐れずに前に向かっていくことが大切だと思っています」

 今夏のパリ五輪はどの種目に出場するかはまだわからないというが、花の都でもハッサンしかできない華やかなパフォーマンスを披露してくれるだろう。