コロナ禍で露呈したDXの課題
企業は今、いかにデータ活用に
取り組むべきか
〜データの力を解き放ち、
かつてない価値創造を〜

2022.2.10

 特集サイト『Next DATA INNOVATION』では、過去にも「データ活用に成功する企業と失敗する企業。何が明暗を分けるのか」、「データドリブンなビジネス開発にはまず『継続性』を担保せよ」「継続的なデータドリブン経営に必要なデータガバナンスとは」などの記事で、DXとデータ活用について詳しく取り扱ってきた。一連の記事でご紹介してきたように、DXが立ち遅れていると言われる日本企業が今目指すのは、データの利活用で新たな価値を創造する「データドリブン経営」だ。しかし、いかにしてこれを実現し、継続的に価値を生み出すことができるのかについては、現在模索中という企業がほとんどではないだろうか。

 2021年9月に開催されたインフォマティカ社主催のオンラインイベント「Informatica World Tour 2021」では、DX推進をリードする企業から識者を集め、現在の国内でのDX状況と今後の推進についてのパネルディスカッションが行われた。データの利活用・ソリューションに携わってきたアクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 データグループ日本総括 マネジング・ディレクターの三原哲氏、データ・マネジメント分野でのリーディングカンパニーであるインフォマティカ・ジャパン株式会社代表取締役社長 吉田浩生氏の見解を中心に、日本企業における今後のDX推進とデータ活用のあるべき姿を探っていく。

日本のデータ利活用における現在の課題は
サイロ化・分散状態の改善
今後はデータの標準化・一元化を

 DXという言葉はさほど新しい言葉ではない。このムーブメントはこれまでも緩やかに、ある程度は進んでいた。しかし、2020年に始まった世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響でその様相は一変する。多くの企業で早急なデジタル化をせざるを得なくなり、従来の事業戦略の見直しを迫られるなど、大きな変換期を迎えた。その際に新たに直面したのは、データの利活用に関する課題だ。この課題に対し、企業はどのように対策を取るべきか。DX推進をリードしてきた一人であり、データ利活用・ソリューションに携わってきた三原氏はディスカッションの冒頭、新型コロナウイルス発生後の状況を次のように振り返った。

三原氏まず多くの企業で課題として挙がってくるのは、データの取り扱い方についてです。すでにDWH(データウェアハウス)やBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールを導入し、多様なデータを隅々まで収集するためにレポートやダッシュボードなどを作りこんでいるという話はよく聞きます。しかし蓋を開けてみると、実際には十分にデータを活用できてはいなかったという状況に直面するのです。特に、コロナ禍でリモートワークが主流となり、自分たちの仕事が案外見えない状態になっていた、ということに初めて気づかされたという声をよく聞いています。

アクセンチュア株式会社
テクノロジーコンサルティング本部
データグループ日本統括
マネジング・ディレクター 三原哲氏

 社会全体でデータ化に真摯に取り組んできた結果、データ利活用の手段は増え、成熟してきてはいたが、まだ取り組みは十分と言えなかった。同様の指摘を行うのは三原氏だけに限らない。この日は他のパネリストからも、これまで取ってきた最適化施策は部分的なものにとどまっており、データ利活用が不十分だった、と振り返る声が聞かれた。さらに話題は過去の特集記事でも取り上げてきたデータのサイロ化、課題としてのデータの標準化など、日本企業が抱える複数の課題へと及んだ。

 データ利活用に取り組む企業であっても、コロナ禍を受けた新しい環境では、まだまだ上を目指さなくてはならない状態にある。わが国におけるデータ利活用のあり方は、他国に比して後れをとっていると指摘を受けることもあるのだが、実際今どのレベルにあるのだろうか。

 インフォマティカはこれまでの企業のデータ利活用の変遷を振り返り、現在は「データ4.0」の世界が実現される必要があると捉えている。このデータ4.0という世界観はどのようなものなのか。インフォマティカの吉田氏は、以下のように説明した。

吉田氏データ1.0は経理なら経理と、部門ごとの定型業務に定形データが使われている段階であり、データ2.0は各部門がサーバーを持ち、データは部門から外に出さないものの、クライアントとクラウド上で業務を行うようになる段階でした。

吉田氏データ3.0は、昨今行われているようなSNSやコールセンターなどで非定型データを取得し、部門外のデータも絡めて利活用するなどの多様な試みが始まる段階であり、そして、データ4.0はAIを活用してより効率的に行う段階となります。

 これを踏まえ、現在の日本におけるデータ活用レベルについて、三原氏は次のように見解を示した。

三原氏日本企業のレベルで今一番多いのは、データ2.0から3.0の間だと思います。ポイントはやはりみんなで使えるようなデータになっているかどうかというところにあります。

 同氏はこのように、データ活用における日本のレベルを示し、さらなる推進のポイントとなりうるデータ共有のあり方の問題について指摘。他のパネリストたちも続いて、日本のデータ利活用レベルを2.0から3.0としたうえで、同様の視点からデータのサイロ化・部門を超えた活用の問題などに触れた。また、こうした部門横断的なデータの活用について、そもそも何のためにデータを活用するのかという観点から、データ利活用の取り組みに共感できる人を全社的に増やすことも肝要だという付言がなされた。こうしてみるとデータ利活用における障壁がどんなもので、どのようなアプローチが必要かという点は明らかなように思える。

 一方の吉田氏は、日本のデータ利活用レベルについて、いまだデータ1.0にとどまる企業も見られるとしながらも、全体としては2.5~3.0の段階にあると分析。また、新型コロナウイルス感染対策における日本のデータ利活用に話が及んだ際には、同氏は自身で携わった海外自治体の支援経験を例に挙げたうえで、国全体として考えた場合、必ずしも他国と比較して日本が遅れているわけではないという見解を示した。

吉田氏新型コロナウイルス感染の際、ニューヨークは感染のエピセンターとも言われていましたが、そんな中で、アメリカですら役所がまだ紙の書類やファックスを使っていたため、インフォマティカが支援し、これを改善しました。ですから一概にアメリカがすごく進んでいる、ということはありません。日本では基幹系はまだ1.0~1.5、2.0程度のレベルですが、トップラインを伸ばすようなカスタマー、CX・UXに近い分野などでは、3.0から4.0を推移していると言えます。

インフォマティカ・ジャパン株式会社
代表取締役社長 吉田浩生氏

 この後、他のパネリストも吉田氏と同様に、各企業・部門はそれぞれ異なるフェーズにあることを指摘。さらに、各企業のこうした段階に対応する、多様なソリューションが利用可能であることなどが語られた。

複数のソリューションの活用で
迅速なDX推進を

 では、こうした状況のもと「データ4.0」の早期実現のため、各企業は具体的にどのような戦略をとっていくべきなのだろうか。企業はデータという「第4の資産」をいかに有効活用していくべきかという問題に取り組み、ソリューションを提供してきた吉田氏は次のように語る。

吉田氏新型コロナウイルス感染拡大を受け、大きな転換期が来ており、DXはもはや待ったなしの状況と言えます。ここで我々のDX支援について、山登りに喩えて説明をさせてください。富士山に登るときに1合目から登るのは大変です。ですからインフォマティカではまず、「5合目までバスで行きましょう」と提案しています。様々なソリューションを組み合わせて提供し、目的の異なる多種多様なお客様たちをまず5合目まで迅速かつ効率よく案内する。5合目まで到達したら、そこからは他企業などとも協働しつつ、それぞれ異なるお客様の目的・ニーズに応じて個別に支援をします。これが私たちの戦略です。

 同氏はこの後、企業にとって本当に重要なのは、あくまでリアル社会のビジネスで利益を上げることだと指摘。多種多様なソリューションを活用し、早急に「5合目」まで登ることの必要性を強調した。実際、現在ではどういうデータを、どのようなデータにかけ合わせて活用すればいいのかを支援するソリューションも存在している。この吉田氏の「5合目戦略」について、三原氏は次のように語り、共感を示した。

三原氏データ活用の領域について言えば、現在ITは「作る」のではなく「使う」のが主眼となった時代であると、弊社では受け止めています。今はもう、「いちいち作る」時代ではありません。ですから吉田さんのおっしゃった、まずは「5合目までバスで行ってしまおう」というのは非常に納得できます。

 この日の議論の終盤には、すでに何度か言及されてきたサイロ化の回避、部門を横断したデータ利活用のための標準化実現の手段として、他のパネリストから、マスターデータベースを作成し、いったん統合してからデータ利活用を試みるアプローチが有効であるという指摘がなされ、具体的解決手段に、インフォマティカも提供している「MDM(Master Data Management)」の活用が挙げられた。実際、マスターデータ管理分野においてインフォマティカ社の製品は、長期にわたりガートナー社などの第三者機関により業界のトップリーダーに位置づけられてきたことで知られているほか、海外グローバル企業における導入の成功事例が少なからずあるなど、一連の問題解決に定評がある。

 また、あるパネリストからは、クラウド上でのデータ活用の分野について、コロナ禍にあった昨年のデータを分析したところ、一番成長が見られていたのは実は日本だった、という意外な指摘がなされ、現場では驚きの声があがった。こうしたデータ分析や、議論の途中で挙げられた多様なソリューションの存在なども鑑みれば、わが国におけるデータ利活用推進は、実は着々と進んでいると言えるのかもしれない。

 DX推進をリードする人物が集結した今回のパネルディスカッション。話を聞いてみれば、表面に情報は出ていないものの、挑戦している企業は少なからず存在することが明らかとなった。まだ乗り出していないという企業担当者は、今回の記事を参考に、ぜひ積極的に改善に取り組んでいただきたい。

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