Data is the new capital
~ データは新しい資本 ~

エグゼクティブサマリ

 過去数世紀にわたって、企業は成長し競争するために、人的、財政的、知的資本に依存してきました。 現在、新しい形態の資本とされるデータは、今日の企業がデジタル時代に生き残り、繁栄するために不可欠です。

 最近のレポート(参考文献1)によると、データドリブン型の組織は年間平均30%以上成長しています。データドリブン型企業に変革するためには、企業全体のデータおよび分析戦略の策定、データプラットフォームへの投資、データガバナンスと管理プロセス、およびデータリテラシーとエンゲージメントを促進する文化が必要です。

CEOがデータを資本としたビジネスへ転換

 3年前、マクドナルド社は過去数十年で稀となる最悪な年を経験しました。競合他社が、ネットを利用した宅配サービスによりファストフード業界の常識を変えたからです。

 マクドナルド社CEOは、2019年までに年間売上高が40億ドル増加したUber Eatsとのグローバルパートナーシップを通じて、オンライン宅配ソリューションを即座に開始しました。

 しかし、同社CEOは、企業がデータドリブン型になるための迅速かつ完全な変革を推進することは、長期的な取り組みとなると考えていました。それは、レストランを巨大なデータプロセッサに再構成する戦略であり、高度にパーソナライズされた顧客の注文やカーブサイド・デリバリー(建物の中に商品を運び入れるのではなく、カーブサイドや歩道で商品を引き渡す方法)をサポートするための機械学習とモバイルテクノロジーを完備することを意味しています。また、天候や大規模なスポーツイベントなどの外部要因が顧客に与える影響を計算して対応し、新製品の開発が迅速に成功することを目指します。まだ取り組みは進行中ですが、こうしたデータドリブン型への転換は、すでに財務成果の達成へ寄与しています。S&P 500(Standard & Poor's 500 Stock Index)において、2015年以降マクドナルド社の収益を上回っている企業はほとんどなく、同社はより高い売上増を記録し続けています。マクドナルド社は、今後の変革をさらに加速するために、いくつかのテクノロジー企業を買収または投資してきました。

 マクドナルド社CEOが注意を払ってきたことは、同社が繁栄し続けるために、有益でまだ活用されていないデータを資本とし、戦略的かつ全社的に活用することが必要であると認識することでした。テクノロジー企業はデジタルネイティブである傾向がありますが、顧客、従業員、ベンダーからの期待の高まりや規制の圧力により、データはリスク、錯乱、成長への足止めの原因になりやすくなります。テクノロジー企業が利用できるデータ資産は、適切な戦略とシステムを導入することで、大きな価値の源であり続けることが可能となります。

 アクセンチュアは、データが資産として企業の貸借対照表(バランスシート)に計上され時価総額に反映されるのは、それほど遠くない将来であると予測しています。

 企業のCEOは、人的、財政的、知的資本と同様に、データの取得、成長、改良、保護、および展開といったデータライフサイクルに対して戦略的である必要があります。

 データ資本は適切に管理される必要があります。借り入れた金融資本が負債になる可能性があるのと同様に、同意のないデータは顧客の信用問題を引き起こす可能性があります。よって、これまで人材獲得とトレーニングに費やしてきた努力を、データの獲得と洗練にも費やす必要があります。CEOは、人的、財政的、知的資本と同じように、データについても保護・管理しなければなりません。気を付けるべきは、データ侵害による訴訟だけでなく、このポストデジタル時代の新しいビジネス通貨となるデータに対する信用を失ってしまうことです。つまり、データを新しい資本とする場合、データの信頼性は非常に重要な論点となります。

データやソフトウェアを含む無形資産で成り立っている
S&P500企業の市場価値の割合 (参考文献2)

それぞれの業界が資本とし得るデータ

 多くの業界は情報集約型であり、CEOはデータの重要性を理解していますが、戦略レベルでデータ活用に真摯に取り組んでいる業界はほとんどありません。それでも企業は、シームレスなケアやデジタルサービスに対する顧客・患者の期待の高まり、ROI低下、新興企業との競争、規制の強化、価格圧力、グローバルでの運用やサプライチェーンにおける混乱などのあらゆる問題に直面しています。つまりこの状況こそが真の変曲点です。

 データを資本とするCEOは、成長し最終的にはビジネスをデータドリブン型に導くことより、そのビジネス価値をさらに高めることができます。データ資本を使用して、収益性の管理、ROI向上、効率化、コスト削減、新製品・サービスの開発、顧客満足度の向上、ブランドロイヤルティの向上、規制要件への対応、コンプライアンスの達成、最終的には生活向上の実現へと、価値を広げ高めていくことができるのです。

 それにもかかわらず、米国の190人の経営層を対象としたアクセンチュアの調査によると、81%の企業がデータ資産を十分に活用するためのエンタープライズデータ戦略を持ち合わせていません(参考文献3)。ほとんどのCEOは、データドリブンという戦略が実際に何を意味するのか、さらにはそこに到達する方法を定義するのに苦労しているのです。

CEOが意識・実践すべきこと

 CEOが示した戦略的意図からデータ活用実践を支援するために、アクセンチュアはデータ資本の作成や展開アプローチを定義しました。

1. Enterprise-wide Data & Analytics Strategy(企業全体のデータ・分析戦略)

ビジネスのあらゆる側面を踏まえた企業全体の戦略を策定する必要があります。

データ・分析戦略を持っていますか?

データを単独で持つだけでは不十分。取得しただけのデータは役に立ちませんし、古いスタイルの意思決定で使用する場合もまた役に立ちません。意思決定のプロセスを再考する必要があります。

Erik Brynjolfsson, Director, MIT Initiative on the Digital Economy

 データ戦略は、LOB/部門戦略に合わせて調整し、IT戦略全体から情報を得る必要がありますが、テクノロジー、人、プロセスへの投資を最適化することで、将来のビジネス戦略を見据える必要もあります。たとえば、買収を通じて成長しようとしている企業は、分析よりも標準化されたデータインタフェース構築への投資を優先する必要があります。一方、データ分析の運用モデル策定にも向き合う必要があります。この戦略では、データの防御的、攻撃的、および収益化の間の適切なバランスも決定する必要があります。また、厳しく規制されている業界においては、新製品の研究開発や顧客エンゲージメントの違反と、規制順守やデータ保護とのバランスを取る必要があります。

 データ戦略に関しては、ゴールそのもの以上にゴールまでの道のりが重要と考えられます。データ戦略の策定自体は、文化的なサポートや調整、成長の考え方、新しいビジネスのアイデアや優先順位を生み出すため、教育的なものです。

2. Data & Analytics Platform(データ・分析プラットフォーム)

企業が検討すべき最も重要な投資は、データ・分析プラットフォームの構築です。

データ基盤はどの程度効果的に活用できていますか?


 データ・分析プラットフォームは、企業全体で接続されたデータにより、より多くの情報に基づいた優れた洞察をもたらします。

 プラットフォームは、部門の枠を超えたデータの相互運用性、運用効率性の観点において、企業全体で構築される必要があり、これまで、データ保護を可能とする第1世代のデータウェアハウスから、大量データに対応できる第2世代のデータレイクに進化し、現在は、様々な機器、センサー、デバイスからのデータを処理および分析可能なプラットフォームへと進化し続けています。これらのプラットフォームは、分析レポートを作成し、AIまたは機械学習モデルにより予測したり、運用アプリケーションに使用したり、容易なデータ変換・利用を可能にしたり、高速データ処理を可能にしたりすることができます。

 データ・分析プラットフォームは、クラウドベースの基盤上で、データの安全かつスケーラブルなストレージ、処理、配信、およびデータ整備、統合、共有、民主化して活用するといった仕組みを実現します。また、スピードと適応性に考慮して構築されており、複雑なデータドリブンの洞察をリアルタイムで処理することができます。このように多くの機能で構成されるプラットフォームは、データ・分析のエコシステムを実現します。

3. Data Governance & Management(データガバナンス・マネジメント)

分析投資の目標と現実とのギャップの最も大きな理由の1つに、データの信頼性が挙げられます。

自社のデータを信頼できますか?


 データの信頼性は、データそのものの品質だけでなく、データの出所や系統などに基づく正確性も保証することによって確立されます。

 データ品質には、データ公開、ヘルプツール、アクセスに関する明確な統制、ファイアウォール保護などを含むボトムアップアプローチによるスチュワードシップとガバナンスのプロセスが必要です。さらに、データのカタログ化により理解容易性や信頼性を高めるテクノロジーも進歩しています。企業がデータ戦略と連携して、明確なデータ管理とガバナンスポリシーやアプローチ、および利害関係者との透明性を確立する上で、データの信頼性は重要な差別化要因とすることができるのです。

4. Data Culture and Literacy(データ文化・リテラシー)

効果的なデータ活用の準備が整っていると感じている人は25%のみであり、データリテラシーが十分であると報告している人は21%のみです。(9,000人のフルタイム従業員を対象としたアクセンチュア/Qlikの調査)

効果的なデータ活用の準備が整っていると
感じている従業員の割合

データリテラシーへの自信を
報告している従業員の割合

 データドリブンな企業への変革意思は組織全体に浸透する必要がありますが、それはCEOから始めなければなりません。取締役会、CEO、および経営陣は、データに精通し、データがビジネスに付加価値をもたらす方法と現在のデータ環境の課題に精通し、データの方向性に沿って調整することが不可欠です。

 さらに、企業戦略、投資、および主要なイニシアチブについて話し合うための場において、データチャンピオンが必要です。それが最高デジタル責任者(Chief Digital Officer)、最高データ責任者(Chief Data Officer)、最高分析責任者(Chief Analytics Officer)、またはその他のCXOなど、呼称にかかわらず重要なのは、データチャンピオンがビジネスとテクノロジー双方に精通している必要があるということであり、またデータの攻撃的・防御的双方の使用について考えることができ、部門の枠を超えた知識を持ち、変更管理者として認識される必要があります。

 最後に、企業全体がデータの知識を身に付ける必要があります。つまり、ビジネスプロセスを改善するためにデータを使って何ができるか、そしてどのように実現するかを認識する必要があります。組織全体でデータリテラシーと活用を促進できるツールやプラットフォームがありますが、組織の文化が抵抗を生み出すと、データ戦略は行き詰まります。データを資本として使用することから生じる変更を管理する体系的なアプローチが必要です。


さいごに
企業のデータ資本が豊富でありデータ戦略がある場合、展開する方法は3つあります。

  1. Top down mandate (トップダウンによる指示・命令)
  2. Bottom-up coalition (ボトムアップで提携・連携)
  3. Or by piggybacking a major strategic initiative like Digital or GDPR (デジタル/GDPRといった主要な戦略的イニシアチブへの便乗)

 それぞれのアプローチには賛否両論があり、ビジネスコンテキスト、リーダーシップの才能、投資意欲によって選択は異なります。

  一般的に、最もリスクの低いアプローチは、3のとおり主要な戦略的イニシアチブを有効にすることでデータ戦略を展開することですが、戦略は、イニシアチブの特定ニーズによって制限、淘汰される可能性があります。トップダウンの指示は成功する可能性がありますが、他のアプローチと組み合わせる必要があります。

参考

1. Forrester Report “Forrester’s Insights-Driven Businesses Set The Pace For Global Growth, Oct. 2018”

2.Ocean Tomo LLC, 2015 Intangible Asset Market Value Study; The Wall Street Journal

3. Accenture Research, Closing the Data Value Gap, 2019

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