文=甲斐みのり 撮影=平石順一
洋食・デザートの発祥地
横浜・山下公園前に建つクラシックホテル「ホテルニューグランド」。関東大震災による甚大な被害で希望を失いかけた街の中、復興のシンボルとして1927年に誕生しました。
地上5階建ての、シンプルながらも堂々とした西洋風の建物の設計を手がけたのは、銀座和光や東京国立博物館でも知られる渡辺仁。玄関から大階段をあがった先の2階に広がる神殿風のロビーや、日本の寺社に用いられる安土桃山建築様式を取り入れたメインダイニング・フェニックスルーム(現在は宴会場)と、当時の建築技術を最大限に活かした荘厳な造り。今も開業時の佇まいそのままの本館は、横浜市認定歴史的建造物や、近代化産業遺産に認定されています。
そんな歴史あるホテルには、今では日本人があたりまえに食する洋食・デザートの発祥地という顔もあります。ホテル開業時にパリのホテルから招かれたスイス人の初代総料理長サリー・ワイルが、体調を崩した銀行家である外国人客のために、喉越しがいいものをと即興で考案した「シーフードドリア」。終戦後にGHQに接収されていた時代、アメリカ人将校夫人を喜ばせようと、当時のパティシエが工夫を凝らして完成させた「プリン・ア・ラ・モード」。同じく接収時代に2代目料理長が、アメリカ人将校たちが茹でたスパゲティに、塩・胡椒・トマトケチャップを和えて食べているのをヒントに、栄養価が高く日本人好みの味をと生み出した「スパゲッティ ナポリタン」。これらが日本発祥と知らぬ人に、横浜のホテルニューグランドが始まりの地と伝えると驚かれます。
そんな、伝統の料理を自宅でも手軽に味わえるようにと、ホテルニューグランドが作るレトルトシリーズ。生のトマト・水煮のトマト・トマトペーストを合わせて、トマトの甘みや酸味が引き立つように仕上げた「ナポリタンソース」。初代総料理長のサリー・ワイルが、世界で初めてカレー粉を商品化したイギリスのメーカーから依頼を受けて完成させたレシピを受け継ぎ、野菜の甘みをとじこめた欧風の「チキンカレー」。チキンブイヨンと野菜の旨みをベースに、リンゴ、チャツネ、ココナッツを加えたルーに、柔らかく煮込んだ国産牛肉がごろごろ入った「ビーフカレー」。
この3品がセットになった「レトルトグルメセット」は、私自身贈り物にいただいて嬉しかったもの。寸胴をイメージしたパッケージデザインは、世界的なコンペティションで金賞を受賞したそうです。
自宅で手頃にラシックホテルの味を噛み締めながらも、やっぱりまた横浜まで赴き、数々の小説・映画・歌の舞台にもなった雅やかな名建築の中で、食事を楽しみたいと思うのでした。