文=難波里奈 撮影=平石順一

メニューは60種類以上

 真っ白な皿に映える、どっしりとしたボリュームのあるプリンと隣でそっと寄り添うクリームのコンビネーションを目当てに、初めて訪れたのはとけてしまいそうな真夏の午後だった。入口の近くでは、「手作りプリン」と書かれた旗が風に揺れている。

 浅草駅と入谷駅、どちらからもアクセスのよい場所にある「珈琲舎ダンケ」は、二代目の佐藤英樹さんと奥様のやよいさんで営んでいる。

主に英樹さんがホール、やよいさんがキッチンを担当

 18歳の頃、現在の珈琲館であるマナベに入社した英樹さん。その後、22歳から33年の間、2021年にコロナ禍で閉店してしまうまで、自身の経営する「コロラド」で働いていた。

 ダンケは英樹さんが8歳のときにお母様が始めた店だが、やはりコロナの影響を受けて2019年から2021年まで休業することに。しかし、廃業届を出していなかったことと、コロラドを閉じたタイミングが幸いにも重なってダンケを引き継ぐことになる。当時、コロラドでアルバイトしていたやよいさんと英樹さんに良縁があって現在のスタイルとなった。

店内に入ると目を引く、銅製のランプシェード

 入れ替わることもあるが、メニューは60種類ほどあり、すべて小さなキッチンで丁寧に作られている。「パリジャン」という気になるネーミングのメニューは、ポテトグラタンにトーストしたバケットが添えられたもので、食パンの上にグラタンを乗せたグラタントーストが進化して今の形になったという。

英樹さんのお母様の頃よりある人気メニュー「パリジャン」

 お母様の頃から、隣にある関根ベーカリーのパンを使用しているなど、付き合いを大事にしているところも素敵だ。また、コロナ禍に生まれたプリンも最近では人気が上がっている。何事も極めたい性質、という弥生さんが、試行錯誤したレシピで店の営業時間後に作り、日々進化している一品。

看板メニューの「ほろにがなめらか焼きプリン」は程よいかたさが魅力
「バスクチーズブルーベリーソース」など、季節ごとに変わるケーキもすべて手作り

 珈琲も、オリジナルコーヒーの豆は東京の店のもの、旬のブレンドの豆は北海道の店のものを使用しているというこだわりがあり、ホットはサイフォンで、アイスは5リットル分をやぐら方式のネルドリップで一度に点てる。英樹さんが一番好きなのはオリジナルアイスコーヒーだそう。

注文を受けてからサイフォンで淹れられるホット。沸騰する様子をカウンターで眺めるのも楽しい
ダンケオリジナルの「マイルドブレンド」。雑味のないすっきりとした味わいは、食事にも合う
北海道から取り寄せる「旬のブレンド」

 昔ながらの良いところは守りつつも、新しい試みもいろいろ取り入れて、テイクアウトはもちろん、UberEatsでも全メニュー対応可能。また、会計についても現時点でPayPayは使用可能、クレジットカードもこれから導入するそう。

ネルドリップの深みが味わえる「アイスコーヒー」
「黒糖カフェオレ」などドリンクメニューも豊富

「何事もやってみないとわからない」とやよいさんが言うように、流行もルールも日々対応が必要な中で続けていくためには、変わらないために変わることが必要になるのだろう。昭和からの長い年月を乗り越えてきたからこその判断と行動力に頭が下がる。

喫茶店ならではの「ナポリタン」も安定の美味しさ
最近新しく加わった「海老ピラフ」

 今では、遠方からやってくる人たちも増えたが、昔は芸者さんも多く、近所で商売をしている人たちにも愛されている。取材時に、小学生の頃からここに来ているという若い方と話をした。まるで自分の家のようにリラックスしているその姿とダンケへの愛を感じる言葉から、街に喫茶店という場所がある存在意義のようなものを強く感じた。