200mに5000万人!? 祇園の南側に異変あり
京都を象徴する場所といえば、祇園。なかでも花見小路四条南側は、お茶屋(舞妓さんや芸妓さんを呼んで、宴会をする場所)や料理店が密集する、石畳の花街。観光客を最も惹きつけるフォトジェニックな場所だ。しかし、インバウンドの激増で、大人がしっぽりと楽しむ街は、約200mほどの通りに年間5000万人以上の観光客が押し寄せる異常事態に。「都をどり」が開催される甲部歌舞練場横には、帝国ホテルが開業準備中だ。さらに、通りに並ぶ伝統的な建物に「ライカ京都店」、「velextra」(以前は「HERMES」、「HUBLOT」だった)「agnès b. CAFÉ祇園店」など、かつてなかった海外有名ブランドショップが出現し始めた。界隈は海外のハイブランドにとって、垂涎の出店希望地となってもいる。
地元はこの流れを歓迎しない。祇園町南側協議会、お茶屋組合は、昨年、「祇園町は観光地ではなく、歓楽街であり生活の場」という認識のもと、業態と店舗の形態の両面で出店規制を強め、誰もが知る有名ブランドの出店交渉がたち消えになったという。
伝統的な街も、昔のままでは存続してゆけない。街のアイデンティティを守りながらどのように変化を受け入れるか。祇園南側から四条通を挟んで約200m、4本北の通り、新門前通に登場した2軒のブティックは、そのありかたのヒントになりそうだ。
クラフツマンシップ、ヴィンテージ志向の世界観が共鳴する場所
新門前通(しんもんぜんどおり)は、高級な古美術商が軒を連ねる、日本有数の骨董街。今年ここに、2軒のブティックがオープンした。
1軒は、高級靴ブランドのジョンロブ。創業は1866年、最高級のビスポーク靴のブランドで、1976年からエルメスグループに入り、1981年に既製靴ラインをスタートさせた。東京にあるショップは丸の内、日本橋高島屋、六本木の東京ミッドタウンなど、といずれも賑やかな一等地だ。
それに比べて、新門前通はあまりにも人通りが少ない。出店地の条件として重視される店前通行量を東京のショップと比較するなら、ここは100分の1程度ではないだろうか。通りがかりの通行人を相手にする必要のない老舗の貫禄も感じるが、この場所には、世界有数のハイブランドが、交通量よりも重視するものがある。
「京都には職人により、代々受け継がれてきた伝統工芸や、ものづくりの精神など、ジョンロブと相通ずる点が多く、この地へ出店したいと長年ロケーションを探してきました。その中でも、新門前は『地元の方々に愛され、ゆったりと会話やお買い物を楽しめる、特別なサロンのようなお店にしたい』という弊社の理想を、まさにかなえられるロケーションでした」と、コミュニケーションマネージャーの小泉麻子さん。
美意識の高い人が出入りする古美術店のほか、ミシュラン2つ星の「新門前米村」、安藤忠雄設計のホテル「The Shinmonzen」のようなハイエンドな店と、芸妓さん、舞妓さんが学ぶ京舞の人間国宝・井上八千代の稽古場でもある片山家能楽・京舞保存財団のような文化的なアイコンもある通りは、日本の他の地には絶対にないエクスクルーシヴ感がある。確かにハイブランドの顧客層とは親和性が高い。