長年にわたって作られてきた定番品は、“当たり前”の良さを持っている。誰もが日常的に使えて、しかも品格あるスタイル作りの役に立つ。そして流行にとらわれず、末長く愛用できるところも魅力的。なかでも独自の哲学を込めつつ、素材や製法にもこだわりを尽くした真のマスターピースを紹介する。
写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川剛 編集/名知正登
使用シーンに則した一足を
下着以上に肌に密着する衣類であるソックス。履き心地が納得いかないと、その日一日どこか落ち着かなくなってしまうもの。しかも足は人体のなかで特に汗腺が集中する部分。もちろん個人差はあるものの、一日でコップ一杯分の汗をかくこともあると言われている。つまり多汗の人などは吸湿性を考慮したモノ選びが必要だし、フィットを気にするなら立体縫製など仕立てにこだわった一足を選ぶべきなのだ。
そして機能的な観点も重要であるが、美観、つまりファッションやルックスの要素においても大人であれば妥協はしたくない。とにかく大事であるのは、使用シーンに則した一足を抜からず用意しておくこと。終日外回りであるなら吸汗性とクッション性に富むものを。一張羅のスーツでハレの舞台に立つのであれば、エレガントなデザインのもの。心からくつろぎたい休日用なら柔軟素材を用いたものなどなど…。
多様化の進んだ昨今は、メーカー独自の技術やノウハウ、それに感性を注ぎ込んだ個性派ソックスが多彩に打ち出され人気を博しているのである。量販店のパック販売のものとは異なる専門ブランドのこだわりを、ぜひ体感してみてほしい。
1. PANTHERELLA
80余年の歴史を注ぎ込んだ英国ソックスの雄
1937年に創業したパンセレラは、英国を代表する高級ソックスメーカー。時代にともない軽量化していく紳士衣料の流れを踏まえ、早くから細編みのファインゲージ製造工場を立ち上げ、薄くしなやかなソックスを世に広めた第一人者である。
現在も手間暇の掛かる伝統的なソックス作りに加え、「ファイン・リンクド・トゥ」と呼ばれる独自の製造法を堅持する。それは爪先の綴じかがりにおいて、綴じしろを極力減らしスマートかつソフトに仕上げる方法であり、ジャストサイズの革靴での着用でもゴロつきなど違和感ない作りがポイントだ。
写真のモデルはそんな同社のノウハウを網羅した逸品。蓄積した技術に加え、繊細で柔軟を極めたエジプシャンコットンを使用しており、なめらかな履き心地や吸水性、それに耐久性も備えている。お気に入りの革靴の日は、こんなソックスを履いて紳士を気取りたい。