「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」をテーマに創作を続ける美術家・内藤礼。個展「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」が東京国立博物館にて開幕した。
文=川岸 徹
生の光景を見出し続ける
美術家・内藤礼の個展「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」が東京国立博物館で開幕した。展覧会レビューの前に、まずは内藤礼について記しておきたい。何を今さら、と思う人も多いだろうが、お付き合いを。
内藤礼は1961年、広島県に生まれた。「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」をテーマに空間作品を制作。生と死を分別できないものとして捉え、地上の生の光景を見出す作品や、生と死が溶け合って一体化したような作品をつくり上げてきた。
彼女が構築する空間作品は国内外で高い評価を受け、1997年の第47回ヴェネチア・ビエンナーレに日本館代表として参加。その後も神奈川県立近代美術館鎌倉「すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している」(2009年)、東京都庭園美術館「信の感情」(2014年)、水戸芸術館現代美術ギャラリー「明るい地上には あなたの姿が見える」(2018年)、金沢21世紀美術館「うつしあう創造」(2020年)と、記憶に残る展覧会を次々に手がけてきた。
代表作は豊島美術館に設置の《母型》
内藤の代表作は何かといえば、豊島美術館の《母型》というのが衆目の一致するところだろう。豊島は瀬戸内海に浮かぶ小島。現在は風光明媚な“食とアートの島”として知られているが、1970年代から80年代にかけて有害物質を含む産業廃棄物が大量に不法投棄され、大きな社会問題になった。2000年代に入ると廃棄物処理の事業が始まり、復興の象徴として建築家・西沢立衛設計により豊島美術館が建設された。
2010年に完成したこの豊島美術館に《母型》は設置されている。建物上部に大きな穴が2つ開き、太陽光や雨風がダイレクトに内部へと入ってくる構造。内藤はこの空間を器として捉え、コンクリート製の床に無数の穴を開け、そこから湧き出した地下水が水滴となり、その水滴が大きくなると生命のように流れ出す作品を完成させた。光、風、雨といった自然現象はもちろん、産廃問題のような暗い過去も、復興を果たした現在も、すべての事象をひっくるめて飲み込んだような壮大さを感じさせる作品だ。