外遊の様子を伝えるスケッチブック

 初公開となる「晩年のスケッチブック」は、夢二が1931(昭和6)年5月から1933(昭和8)年9月にかけて外遊した際に持ち歩いたスケッチブック。ハワイ経由で訪れたアメリカ西海岸と、その後訪れたドイツ、チェコ、オーストリア、フランス、スイスといったヨーロッパ各国での旅のスケッチが残されている。

 街の風景や人々、標識、アパッチ族の絵文字、牛……。スケッチブックにはさまざまなモチーフが描かれているが、やはり女性像が多い。洋装、和装、そして裸婦。夢二は外遊中も理想の女性像を追い求め、精力的にスケッチを続けた。

《西海岸の裸婦》1931-1932(昭和6-7)年 油彩、カンヴァス 夢二郷土美術館蔵

 その成果のひとつといえるのが《西海岸の裸婦》。夢二は白人女性の肌の表現に挑んでいるが、かなり悪戦苦闘した模様。日記に「モデル女よ、その色が俺の絵具箱にはないのだ」と記している。だが、苦労の甲斐あって出来はいい。透き通るような白色の肌に、青み、赤み、黄色みがうっすらと差し、生命感が醸し出されている。

《水竹居》はドイツ滞在中に、現地の女性をモデルに描いた作品。青色を基調にした寒色系の着物が、女性の肌の白さを際立たせている。表情は温和で柔らか。全体として色っぽさを感じさせるが、その中に奥ゆかしさを漂わせるところが夢二らしい。

《初恋》1912(大正元)年 油彩、カンヴァス 夢二郷土美術館蔵

 女性の表現に人生の大部分を費やした竹久夢二。莫大な数の作品を残しているが、不思議なことに美人画の系譜の中で夢二が語られることはない。夢二は師匠につかず、弟子も持たず、美術界のしがらみから離れて、ポツンと違う場所で創作に励んだ。そんな孤高の生き方を、女性たちは放ってはおけなかったのかもしれない。

《立田姫》1931年(昭和6)年 紙本着色 夢二郷土美術館蔵

 女性との愛に生きた画家、竹久夢二。50歳の誕生日を間近に控えた1934(昭和9)年9月1日、夢二は「ありがとう」の言葉を残してこの世を去った。