明治末期から昭和初期にかけて活躍した画家・竹久夢二。美人画で知られる夢二の生涯をたどる展覧会「生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界」が東京都庭園美術館で開幕した。

文=川岸 徹 撮影/JBpress autograph編集部

《アマリリス》1919(大正8)年頃 油彩、カンヴァス 夢二郷土美術館蔵

一世を風靡した「夢二式美人」

 すらりとした手足にしなやかな体躯。表情は、はかなく、せつなく、やるせない。竹久夢二は「夢二式美人」と呼ばれる人物画で、大正ロマンを代表するスターアーティストになった。小説の挿絵、楽譜の表紙、新聞のイラストレーション、街張りのポスター、浴衣のデザイン。詩や童話にも才を発揮し、自作の詩《宵待草》にはメロディが付けられ大衆的なヒット曲になった。

宮武東洋《夢二ポートレート》夢二郷土美術館蔵

 今で言うところの、マルチアーティスト。その創作の根源には、常に女性の姿があった。「女性はどのように描けば美しく見えるのか」。理想の女性像を追求し続けた夢二は、さまざまな女性と出会い、恋に落ち、その女性たちをモデルに試行錯誤を重ねた。

 23歳で結婚して3児をもうけた岸たまき、画学生で夢二のファンだった笠井彦乃、“お葉”の愛称で知られる人気モデルの佐々木カネヨ。ほかにも帝劇の女優・桜井八重子や作家・山田順子ら、夢二との恋愛関係が取り沙汰された女性は少なくない。

 夢二の浮気エピソードは数知れず。だが、そんな人生を貫いたからこそ、憂いに満ちた独特の美人画が誕生したといえるだろう。夢二が描く女性は一見、かわいらしく、奥ゆかしい。でも、心の奥底には深い悲しみを宿しているように感じる。その悲しさに、不思議と惹きつけられてしまう。