さらなる問題とは
一方で、アイスショー全体の公演数が増加してきたのは、アイスショーの人気が高まる時期が何年にもわたって続いてきたからと言うことができる。
「おそらくこの10年のアイスショー産業の成長というのは競技の世界が牽引してきたと思います。2006年のトリノオリンピックで金メダルを獲った荒川静香さん以降、世界トップスターがたくさん誕生しました。そのネームバリューでアイスショーが成立し、観客やファンがついてくる状況がありました。スター選手がアイスショーに参加し、競技会から引退してもそれぞれのアイスショーで頑張っているわけです。けれども、プロの一線で活躍できる期間もそう長いわけではありません。そういう意味では次世代のスターをアイスショーは求めています」
「ただ」、と続ける。
「スターの出現率はたぶん、これからはどんどん落ちていくことになると思います」
その理由をこう語る。
「誤解していただきたくないのですが、次世代のスケーターの能力が低いからとかそういうこととは全く別次元の理由からです。実際、今を輝くスケーターあるいは次世代のスケーターの競技能力は右肩上がりで高まっており、驚くべき高水準です。ゆえに日本は依然として優れたスケーターを世界に輩出し続けています。
では、なぜそれとは反比例してスターの出現率が低下するのかといえば、ここまで日本フィギュアスケート界が、スポーツとして加速度的に成長・発展してきたがために、おおむねメディアや一般市場が好きそうなサプライズを全部起こしてきてしまったということがあります。例えば世界選手権やオリンピックの初優勝や連覇だったり、◯◯ジャンプ初成功というようなメディアバリューがあって、キャッチーに一般の方々に訴求していくからこそ、アイスショーも隆盛するというような好材料が出尽くしている感があります。ここが1つ難しいところではあるな、と私個人では思っています。もちろん、この予測を裏切るような結果になってほしいと切に願っています」
アイスショーの人気を高めてきた要因が今後は薄れゆくであろう中、どう取り組めばよいのか。町田はいくつかの提言をする。 (続く)
町田樹(まちだたつき)スポーツ科学研究者、元フィギュアスケーター。2014年ソチ五輪5位、同年世界選手権銀メダル。同年12月に引退後、プロフィギュアスケーターとして活躍。2020年10月、國學院大學人間開発学部助教となり2024年4月、准教授に昇任。研究活動と並行して、テレビ番組制作、解説、コラム執筆など幅広く活動する。著書に『アーティスティックスポーツ研究序説』(白水社)『若きアスリートへの手紙――〈競技する身体〉の哲学』(山と溪谷社)。4月27日には世界的バレエダンサーである上野水香、高岸直樹とともに「Pas de Toris――バレエとフィギュアに捧げる舞踊組曲」に出演、振付・演出も手がける。