労働者人口の減少、コンプライアンス意識の高まりなど、近年バックアップオフィス業務における多くの課題が浮き彫りになっている。問題を打開するにはどのような取り組みが必要なのか。その問いに答えるセミナーが、2024年2月21日「第7回 ファイナンス・イノベーション」にて開催された。同セミナーでは、EYビジネスパートナー株式会社 アソシエートパートナー 横井 太一 氏より、財務会計・税務・人事各部門が抱える具体的な課題とその背景を押さえた上で、外部専門家やテクノロジーを活用した業務標準化やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の成功事例と各部門や課題ケースに合わせた今後の展望が解説された。ここでは、当日の内容を一部紹介する。
所有から共有へ
セミナーの冒頭で横井太一氏は、日本の労働人口減少という社会課題を示した。2021年に1億2,600万人だった総人口は2060年には9,300万人まで減少すると予想されている。高齢化率は2021年の29%から、2060年には38%に達する見込みだ。
「一方で、コロナ禍を受けた環境変化により、クラウド・テクノロジーは一般化し、働く場所の自由化や副業などの多様な働き方が認められるようになっています。EYも専門性とテクノロジーを活用した業務集約・BPOサービスを通じて、企業および社会のサステナブルな成長を支援します」と紹介した。
具体的には、EYビジネスパートナーは業務集約化・BPOノウハウを持ち、可視化、標準化、自動化などの実現を支援しているという。また、東京のほか、福岡、沖縄などにショアオフィスを有し、外部のリソースもプールしている。
横井氏はさらに「今後は、企業一社一社が人を雇って経理や人事の業務を行うような自前主義には限界が来るでしょう。すなわち、集約化と共有化が加速し、必要な機能をオンディマンドで調達するような世の中になると考えています」と指摘した。
その点で、EYのようなベストプラクティスが集まる存在は頼もしいところだ。ちなみに横井氏が所属するEYビジネスパートナーは、EYの国内各法人、およびEYのグローバルネットワークを活用し、高度な専門性が求められる課題に対応している。EY税理士法人を母体とした業務受託体制により、税理士独占業務にも対応可能だ。
「今後日本全体が労働人口不足環境に向かうため、企業はさまざまな外部リソースの活用を検討すべき」と横井氏は語る。
バックオフィス業務のニューノーマルは集約化とBPO活用
セミナーでは多くの企業が直面する課題とその解決方法も紹介された。
横井氏は「バックオフィス業務の課題が浮き彫りになっています。それは『人手不足による業務継続性懸念』、『コンプライアンス意識の高まりとガバナンス強化』、『致命的なキーマンリスクの進行』などです」と話す。
日本は少子高齢化が進み、労働力人口そのものが減っている。現在の仕事を続けることにも困難が生じており、事業拡大もままならない状態にある。また昨今は、企業や団体・組織のコンプライアンスに対する意識について、社会から高い関心を寄せられている。1つのほころびから始まる風評被害リスクは大きく、担当者はガバナンス強化に頭を悩ませている。
一方で、経理・税務業務は属人化を招きやすく、一部のスキルフルな方に負荷が集まり、致命的なキーマンリスクを内包している。担当者も心の重荷と責任感の板挟みになっている。
横井氏はこれらの課題解決に成功している企業の特長を紹介した。「例えば『業務標準化とBPO活用』です。バックオフィス業務を標準的なサービスレベルに統一します。経験が必要でBPOが難しそうに見える業務も、ノウハウを可視化・ルール化することで大胆なBPO活用が可能になります。業務を集約管理し、専門性の高いBPOベンダーを活用することで、『業務集約によるガバナンス強化』も実現します。また、キーマンリスクは複雑なExcelワークファイルを使ったデータ収集・加工が引き金になりますが、『ワークファイル標準化による内部統制強化』を進めることで、工数削減とリスク低減を同時に実現できます。」
また、労働人口減少を背景に、業務集約に取り組む企業も増えている。だが、成功している例、効果を発揮している例はまだ少ないようだ。それに対して横井氏は「成功の要因はひとえに『標準化』に係っています。4つの標準化が成功のカギです。『サービスの標準化』、『プロセスの標準化』、『システムの標準化』、そして『リソースの標準化』です」と解説した。
サービスの標準化とは、受託する業務メニュー(何を集めるか)の標準化だという。プロセスの標準化とは、受託した業務を誰でもできる形にトランスフォームすることだ。システムの標準化とは、その名の通り利用するシステム・ツールを標準化すること。リソースの標準化とは、集約化された業務に適した組織体制の最適化だという。
横井氏は「一見BPOが難しそうな複雑な業務でも、可視化し、誰にでもできる標準的な業務形態にアップデートすることで役割分担変更が可能になります」と話した。
具体的には、現状業務が文書化されておらず全体像が分からないという状態から、業務全体をリスト化し、それらの主従関係を階層化、さらにインプット・アウトプットを明確化する。それにより経験値の文書化・ルール化、業務・情報フローの最適化といった標準化が可能になり、誰でも、どこでもできるようになるという。
コロナ後の世界では、業務の集約化がさらに加速する
セミナーでは、可視化・標準化の取り組み事例も紹介された。その一つが、Excelワークファイルに散見される課題の解決である。キーマンリスクには複雑なExcelなどのワークファイルを使ったデータ収集・加工が引き金になっているケースが多くある。業務で使用されているExcelワークファイルの多くが、「担当者以外が内容を理解しづらい」、「入力のみで作業が完結しない」構造となっているため、業務の効率性、継続性、堅確化を阻害している例が散見される。
さらに、具体的な企業のExcelワークファイル改善事例も紹介された。大手生命保険会社では税務申告に係るワークファイル(交際費)改善について、マクロによるデータ抽出・加工・集計をExcel関数で代替することで作業の大幅な軽減を実現した。
また、アウトソースの事例も紹介された。国内大手製造業では専門家のリソースを使って体制を補強するとともに、業務の効率化・堅牢化を行い、安定的に継続できる業務体制作りを進めたいという希望だった。
「希望範囲について段階に分けて可視化・引継ぎを行い、アウトソースを進められました。その結果同社では、外部委託による工数削減効果が確実に顕在化しています」と横井氏は話した。
そして「これまでバックオフィスの業務の効率化は内部集約化、シェアードサービスセンター(SSC)化、外部化にとどまっていました。しかし、コロナ禍を受けた技術と人の意識の変革により、場所制約の解放と境界意識の希薄化が進展しています。今後は、マネージド・サービス(社員の転籍)への展開や共同プラットフォーム化による人材リスクの移転や外部企業から業務を受託することによる追加収益獲得へ発展すると考えられます。労働人口の減少が加速する中では、世の中がこのように変わっていくでしょう」と結んだ。バックオフィス業務の効率化、改革を考える際には、一度、相談してみてはいかがだろう。
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