労働力が減少していくなか、一人ひとりの生産性が高い組織を作ることは、今や避けられない企業命題となっている。ただ、組織を変えるにはさまざまな壁がある。たとえば昔から続けてきた「慣習」。歴史ある企業ほど慣習にとらわれ、抜け出せないこともあるだろう。そこで打開策となるのは、一社で組織改革を行うのではなく、他の企業と共創することだ。

 このようなメッセージを伝える場となったのが、2023年11月22日に行われたフォーラム「Advance The Business Forward~古い慣習からの脱却!成果を出す組織に~」である。NTTコミュニケーションズが運営する「OPEN HUB」の協力のもと、企業の組織力向上や組織変革に向けた具体的なアプローチについて考察する時間となった。当日は、共創による組織変革の事例として、西武鉄道とNTTコミュニケーションズの取り組みを紹介。本記事ではその事例を中心に、フォーラムの内容を振り返る。

コロナ禍に敢行した西武鉄道のデジタル改革、
生まれた社員の意識変化


「2年前(2021年)まで、西武鉄道の乗務員や技術系の係員など、現場で働く従業員のデジタル環境はありませんでした。社員3600名のうち、現場の従業員は3000名にのぼります。会社で何か新しいことを始めようにも『現場はデジタル環境がないから出来ない』というのが枕詞になっていたのです。業務を見ても、従業員の申請書はすべて紙ベースで、人事だけで128種類もの申請書がありました。それを毎回本社まで電車と車で運び、回覧も一人一人に回してハンコを押していくという非効率な状況だったのです」

 これは、フォーラムの中で西武鉄道 人事部 課長の町田亨氏が語ったデジタル改革“前”の状況である。同社はそこから、アナログだった業務プロセスを大きく変えていった。

 2021年当時、西武鉄道は新型コロナ拡大の影響を受け、厳しい経営状況に立たされていたという。しかし、それがデジタル活用へと舵を切るきっかけになった。

「新型コロナ拡大により、2021年の運賃収入はコロナ前から約30%減少、純利益はグループ連結で700億円の損失となっていました。それを契機に、西武グループは2021年から中期経営計画で『デジタル経営』をトピックの1つに定め、攻めと守り双方のDXに取り組んでいます。今回紹介する取り組みは『守りのDX』の一環であり、デジタルによって固定費削減や業務効率化を進めたものとなります」(町田氏)

 同社が行ったのは、おもに3点。まず現場の人材全員に対する「タブレットの配布」。そして「ワークフローシステムの導入」。さらには「決裁権限の見直し」だった。

 これらはNTTコミュニケーションズと二人三脚で進めたほか、人事部門と情報システム部門が連携して行ったという。加えて力を入れたのが、実際にデジタルを使う現場への理解だ。

「現場で業務を行う部門に腹落ちしてもらいながら進めることが大切です。プランを立てると同時に各部門・現業を周り、目的や目指す姿を説明しました。コロナ禍もあり、最終的にはみなさん前向きに協力してくれました」(町田氏)

 改革による大きな成果も出ている。今回はおもにタブレットの配布と、それによるデジタル環境の整備が生んだ効果について語られた。

「当初、この取り組みの目標として『一般事務業務の業務量を半分にする』ことを掲げていましたが、おおむね実現しています。また、ペーパーレス化により年間250万枚、費用にして1200万円ほどの削減を行いました」(町田氏)

 より細かな効果を挙げると、すべて紙ベースだった申請書はデータベース化され、承認スピードが上がったほか、配達も業務量が削減されたという。会社からの指示伝達も紙からデジタルになり、現場従業員がいつでもどこでも確認できるように。情報伝達の正確性も増した。

「さらに大きかったのは、従業員がデジタルを手にしたことで、率先して自身の業務を変革するよう意識変化が起きた点です。たとえば従業員の発案で、事故現場を撮影して社内共有したり、線路の点検作業にもデジタルデバイスを使うことで、事務所に戻らず記録できるなど、新しい動きが続きました」(町田氏)

 これらを伝えた上で、かつて現場で聞かれた「デジタル環境がないから出来ない」という枕詞はなくなったと、町田氏は強く言い切る。今後は効果検証をしながら、グループ各社にこの成功体験を横展開するほか、西武鉄道としては攻めのDXも進めていくという。

新サービスも紹介、NTTコミュニケーションズが提供する
「いつでもどこでも働けるICT環境」

 西武鉄道の取り組みをサポートしたのがNTTコミュニケーションズだ。現場の従業員3000人にタブレットを配布した裏側では、当然ながらネットワーク環境の整備やセキュリティの構築が必要になる。そこで両社が手を取り合い進めていったという。

 フォーラムでは、NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部 クラウド&ネットワークサービス部・カタリストの稲沖麻子氏が登壇し、西武鉄道の活用したリモートアクセスのサービス「Flexible Remote Access」について説明があった。

「自宅や外出先など、さまざまな場所からオフィスと変わらず安全に業務ができるサービスです。社内と同等のセキュリティを担保しながら各種ツールにアクセスするほか、特定のクラウドサービスには直接インターネットを経由してアクセスすることで、社内のネットワークリソースを逼迫させずにリモートワークを実行できます」

 さらに同サービスでは、ユーザー管理やセキュリティに必要なポリシーの設定についても柔軟なカスタマイズが可能。課金も1ID単位で行えるため、必要な分のみまかなえる。「コストの最適化」がはかれるという。西武鉄道はこのサービスを使い、十分なセキュリティ体制を敷いた上で、現場の人が安全にデジタルを使う環境が生まれたのだった。

 この説明の後、稲沖氏からはフレキシブルなハイブリッドワークを支援する新たなネットワークサービスも紹介された。「docomo business RINK」というものであり、企業が求める多様なネットワークと複数のクラウド型セキュリティ機能を一体提供するサービスだという。簡潔に説明すると、従来セキュリティ対策に力を入れていた“アクセス元”と“アクセス先”だけでなく、その中間経路となるネットワークにもセキュリティ対策が施せる。

「これにより解決できる具体的な課題として、たとえば社内でウェブ会議を行う社員が増え、社内ネットワークの遅延が起きる場合、ウェブ会議の通信を迂回させる本サービスの機能が有効になります。また、新店舗や新拠点のICTインフラやセキュリティを準備する際、その構築に時間がかかり納期が間に合わなかったという声も聞かれます。本サービスは、さまざまなネットワークを組み合わせることで新店舗や新拠点の迅速なICT環境の準備が可能になりました。さらに企業の中には、セキュリティやネットワークをマルチベンダーで運用しているためにコストや運用の負荷が増しているケースもあるでしょう。このサービスはセキュリティを一体型で提供しているため、軽減を図りやすくなっています」

 このようなメリットをもとに、企業の柔軟で働きやすいICT環境の実現を目指していく。それはもちろん、生産性の高い組織を生んでいくことにつながるだろう。

OPEN HUBが担うのは、企業を結びつける「触媒」

 今回のフォーラムは、NTTコミュニケーションズの事業共創プログラム「OPEN HUB」の協力のもとに開かれたもの。世の中のさまざまな社会課題に対して、各社のリソースやアセットを活用しながら、企業が共創して課題に向かっていく。そのような考えで運営されているのがOPEN HUBである。

 当日は、OPEN HUBの特徴や機能についても紹介された。たとえば、ここには「カタリスト」というビジネス共創や技術・デザインの専門家集団が約500名おり、企業を結びつける“触媒”の役目を果たす。さらには、NTTグループの持つ通信インフラをはじめとした最先端技術も解放するほか、バーチャルでも出会える場(バーチャルパーク)を用意し、リアルとデジタルで人や企業がつながる仕組みを設けている。

 すでに400件ほどの共創事例が進行しており、OPEN HUBのメインサイトにある「ジャーナル」には、さまざまな事例の詳細が紹介されているという。
 
 そのほかフォーラムでは、ワークスタイル&組織開発専門家の沢渡あまね氏による組織カルチャーを健全化するための思考や、ソニー・コンピュータエンタテインメント元会長の久夛良木健氏によるイノベーションを起こす組織と起こせない組織の違いなどが語られた。

 古い慣習から脱却し、成果を出す組織になる――。そんなテーマで行われた本フォーラム。積み重ねてきたものを大きく変えるのは簡単ではないからこそ、一社ではなく他社と共創することで前進できる。組織改革を行う上で、大切なヒントを得られる時間となったに違いない。

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