グローバル視点で経済・ビジネスの動向を伝えるビジネスメディア『JBpress』や企業変革の専門メディア『Japan Innovation Review』、ライフスタイルメディア『JBpress autograph』 などのWebメディアを運営する日本ビジネスプレスでは、配信する記事の質を高めるため、朝日新聞社が開発したAI校正ツール『Typoless』を活用している。
どのようなツールで、何を実現するものなのか。JBpress前編集長で現在はJBpressチーフ・ビジネス・オフィサーを務める鶴岡弘之が、メディア企業以外でも活躍しそうな『Typoless』の実力と将来への期待を語る。
人は必ずミスをする、だから見逃さない仕組みが必要だ
寄稿者から原稿が届いたら、Webメディアの編集者は時間との戦いだ。原稿のニュース性が高ければ高いほど、一刻も早く読者が読める状態にしたい。その思いで原稿の内容を確認し、必要に応じて寄稿者へ問い合わせるなどして必要な修正を施し、公開時と同じ見栄えのチェックのためのページを作り、寄稿者に最終確認を依頼。こうしたプロセスを経て最終的に公開にこぎつける。この過程で絶対にしてはならないのは、ミスの見逃しだ。
「出版社では、校閲と呼ばれる専門職の人たちが、“てにをは”、主語・述語のねじれ、同音異義語の誤用などをチェックしてきました。ただ、Webメディアの場合は記事に正確性だけでなく即時性も求められるため、校閲職の方々に24時間待機してもらうのは現実的ではありません。それに、人間は必ず間違います。仮にミスに対して懲罰を与えても、絶対にミスはゼロにできません。なので、私たちがすべきことは、ミスをしないことではなく、ミスを見逃さないことです」
同じような悩みは、ほかのWebメディアも抱えている。実は同社では、メディアサイト構築を支援するためのクラウドサービス『Media Weaver』の開発と販売も行っており、お客様である多くの出版社や地方新聞社からも、ミスを減らすための機能の提供を求められていた。
そこで自社サイト、そしてお客様サイトの記事の品質向上のため、校正ツールを導入することとし、具体的な選定に入った。ツールを探す上で譲れない条件がいくつかあった。使いやすさや精度の高さに加え、AIツールであること、つまり、継続的に使用していく中でツールが進化することもそのうちのひとつだ。
「校正ツールの中には『この漢字はこう置き換える』といったルールをいくつも内包し、そのルールに反していないかでチェックを行うものもあります。しかしそれでは、ルール外のミスは見逃してしまいますし、ルールができたときにはなかった言葉、なかった使われ方には無力です。そこで、常に進化し続けるツールが必要だと考えました」
そうして出合ったのが、朝日新聞社が開発する『Typoless』だった。
複数のツールを比較、質もUIも抜きん出ていた『Typoless』
『Typoless』は、朝日新聞の記事校正履歴を学習したAIベースの校正ツール。約40年分の膨大な記事データを学んでいるので、信頼感がある。
「チェックのために文法や表記に誤りのある記事を作成し、『Typoless』を含む複数のAIベースの校正ツールを試してみたところ、正確性と速さ、そして使い勝手で頭ひとつ抜きん出ていたのが『Typoless』でした」
AIベースに加え、朝日新聞の校閲ノウハウを活用したルール辞書、さらにはユーザーが自分で用意するカスタム辞書も追加できるため、より柔軟な使い方ができる。導入前に『Typoless』の開発者に会って話を聞いてみると、その熱意にも驚かされた。
「『文章に潜む誤りを見逃さない』というビジョンを情熱的に語る姿を見て、こうした方々が開発しているのであれば、必ず『Typoless』はどんどんと成長していくだろうと確信できました」
早速、社内に導入し、編集者それぞれが使い始めた。
「使い方は各編集者に任せていますが、まずは編集者が原稿をチェックし必要な修正をし、その後『Typoless』を使い、そこで指摘されたミスや書き換えの提案について、採用するかどうかを編集者が判断しているケースが大半だと思います。今後は、それぞれの使い方からベストプラクティスを見つけ出し、それを『Media Weaver』に反映させていきたいと考えています」
日本ビジネスプレスによる導入後、『Typoless』はすでに進化を始めている。炎上リスクのある表現の検知機能が追加され、カスタム辞書も複数持てるようになった。
少しのミスが誰かの判断を惑わせ、損失を生む可能性がある
『JBpress』や『Japan Innovation Review』の編集部にとってなくてはならない存在となった『Typoless』。性能が十分なだけに、今後への期待も大きい。
「記事には本文のほか、タイトルや小見出しも含まれます。そして、本文では違和感があっても、タイトルや小見出しであれば適した言い回しや表現もあります。柔軟な対応ができるようになれば、我々だけでなく『Media Weaver』をお使いのお客様にも喜んでいただけるようになると思います」
さらには、固有名詞や事実関係の確認機能もほしいところだ。
「メディア業界には“名数”という言葉があります。名は固有名詞、数は数字のことで、名数は絶対に間違ってはならないとされています。しかし、最も間違いやすいのもまた名数なのです。ですから例えば、『渋沢英一』と書いてあったら『渋沢栄一』ではないか、『1983年のプラザ合意』と書いてあったら『1985年ではないか』などと、ファクトチェックをしてアラートを出してくれる機能があればとても便利です」
これらの機能は将来実装すべく、すでに検討が進められており、今後、さらなる機能の拡充が予定されている。Webメディアは紙メディアと違い、公開した記事にミスがあった場合も技術的にはすぐに修正ができる。しかしそれでも、やはりミスは見逃したくないと鶴岡は言う。
「私たちが一瞬でも間違った情報を提供すれば、その間違った情報に基づいて、どなたかが間違った判断をする可能性があり、それが様々な損失につながる可能性があります。このことは、情報を扱っている私たちが常に肝に銘じなくてはならないことです」
間違いとまではいかない“てにをは”の誤りや誤字脱字も、やはり徹底的に排除すべきものだ。
「他の追随を許さないスクープでもどれだけ役に立つ記事でも、そこにたったひとつの不完全な文章や誤字脱字があれば、記事、そしてその記事を掲載しているメディアの信頼性が損なわれます。記事の品質には、正確さや読みやすさなど様々な要素がありますが、ミスがないことは欠かせない要件のひとつ。記事の品質管理は、私たちにとって生命線です」
これは、メディア以外の企業でも同じだろう。鳴り物入りの商品やサービスのプレスリリース、大事な取引先に説明するための資料、注目される舞台でのスピーチ原稿に見逃され残ってしまったささやかなミスは、企業の信頼性を揺るがす。
「神は細部に宿ると言いますが、まさにその通り。『Typoless』は、細部からミスを排除し神を宿らせるために欠かせない相棒です」
個人向けのスタンダードプランは月額2200円(料金はすべて税込み)、プレミアムプランは月額5500円で、どちらも14日間の無料トライアル期間が設けられている。法人向けのエンタープライズプランは月額2万4750円から。こちらは30日間の無料トライアルが設けられている。その実力をまずは試してみてはどうだろうか。
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