本当に平安時代の作?
仏像の顔や体つきはふっくらとしており、平安時代後期の仏像の特徴がよく出ている。特に阿弥陀如来坐像は、当時の京の仏師、円勢をはじめとする円派仏師の作に似ている。だが、後頭部の螺髪の刻み方や右肩にかかる衣を別材でつくる技法は、鎌倉時代以降に流行ったスタイル。本当に平安時代の作なのだろうか?
本展の担当学芸員で、東京国立博物館主任研究員の児島大輔氏は言う。
「京の貴族たちは伝統を大切にしていたため、前例のないことには挑みにくかった。逆に平泉は都ではなかったからこそ、柔軟に先進性のあることにチャレンジできた。奥州藤原氏の財力、京とのネットワーク、さらに柔軟性。この3つが結びつき、時代をリードする仏像を生み出したと思われます」
見どころは仏像以外にも
会場では仏像のほか、初代・清衡が安置されていた金箔押の木棺や、遺体がつけていた装飾具、かつて金堂内を華麗に彩っていた工芸品なども鑑賞できる。
なかでも『金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅』は、奥州藤原氏の繁栄ぶりをうかがい知ることができる名品。画面中央に金色に輝く九重の宝塔が描かれているが、その姿は金泥を用いて書かれた『金光明最勝王経』の経文の連なりによって表されたもの。宝塔の周りには金銀泥のほか、赤や青、橙、緑などさまざまな顔料で釈迦説法図や風景、人物などが描かれている。ここまで緻密に描き込むとは、莫大な時間と労力が必要であっただろう。とくとご覧あれ。
会場の入口に設置された映像展示にも注目を。325インチ(幅7.2m、高さ4.05m)の大型8KLEDディスプレイに金色堂の内外が原寸大で映し出される。その精密な再現力に驚かされるとともに、堂内の造りについて学ぶことができるのがありがたい。鑑賞前に金色堂の様子を知るにもいいし、展覧会鑑賞後に改めて仏像の配置などを確認するにもいい。何より大画面から放たれる煌びやかな金色の輝きに、気分が上がる!
展覧会を鑑賞する前には「現地へ出向き、平泉の空気を感じながら見るべきではないか」との思いもあった。だが最新の技術を駆使し、丁寧にひとつひとつの文化財を解説していくこうした展覧会は実にありがたい。「平泉に行きたいと思っていても、なかなか時間が作れなくて」という人は、ぜひこの機会を逃さずに。