文=松原孝臣 写真=積紫乃

「ホテル業界のアカデミー賞」受賞

 異色の経歴を持ち、そして各界から大きな注目を集める首長がいる。長野県白馬村の村長、丸山俊郎である。昨年7月、初出馬で初当選を飾った。当時は47歳、白馬村では史上最年少での当選であった。

 異色として注目されたのは、行政経験はない中で村長となったこと。そして「世界一の支配人から首長へ」と形容できる経歴を持っている点にある。

 だが異色と見える経歴以上に、実は描いている理念そして実践にこそ、丸山に着目すべき理由がある。

 まずはその足跡をたどってみたい。

 丸山は、1974年10月、白馬村に生まれた。

 大学を卒業すると、オリエンタルランドに勤務。つまりはディズニーランドだ。さらにはオーストラリアにワーキングホリデ―で渡る。

 2009年、白馬に戻り、家業である日本宿「しろうま荘」の支配人となると、脚光を浴びることとなった。

 2012年、「ワールド・ラグジュアリー・ホテル・アワード」のスキーリゾート部門でグローバルウィナー賞を受賞。世界水準のサービスを提供しているホテルや施設に対して30万人以上の業界関係者や旅行者などによる投票や審査などで与えられる国際的な賞で「ホテル業界のアカデミー賞」とも呼ばれる。これは日本初のことであった。

 2016年にはロンドンの旅行誌が主催する「ラグジュアリー・トラベル・ガイド・アワード」で、「ジェネラル・マネージャー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。支配人として世界一の栄誉に輝いたことを意味する。

 2018年にはホスピタリティ業界を対象とした「ワールドワイド・ホスピタリティ・アワード」に日本人として初めてノミネートされ、「ベストホテリエ」ファイナリストを受賞した。

 施設を大きく変えたわけではない。ぱっと見た目には、いわゆる一般の旅行宿のようにも映るが、高い評価をもたらしたのには丸山の経験がいかされていた。

「大学で経営学や財務を勉強して卒業し、オリンピックの年にいったんは白馬に戻ったんですね。そのとき、『これはちょっと投資と回収のバランスが不均衡なのではないだろうか』と感じました。世界の祭典であるこのオリンピックだけれども、この後作ったものを活用し維持管理していくのは容易ではないと思いました。そのとき、今後もお客さんに来てもらうにはいわゆるおもてなしを含めたソフトの方が変わらないといけないという思いがありました。

 そこで、ホスピタリティで定評があるというところでオリエンタルランドへ行きました。約5年、『ジャングルクルーズ』などのアトラクションをやる中でエンターテインメント性やいわゆるおもてなしという意味でほぼ満足の行くだけの経験を集めたと思いました。一方で白馬を見たときに、やっぱりもっとグローバルなお客さんに来てもらわないと国内旅行者のパイの奪い合いになってしまうと感じていました」