音楽的視点から考えるデザイン
「フィギュアスケートは必ず音楽があって滑ります。スケーター本人のスキルもそうですけれども、個性も含めたパフォーマンス、振付の人の個性やクリエイティビティ、それと曲、この3つの軸が全てなんです。ただ、クリエイティブディレクション的な領域で音楽をどう捉えるかが難しい、という話がよく出ていて。要するに音楽的な視点からどういうデザインにしていくべきか、コンセプトにしていくか、というところを手伝うようになったのが、衣装に携わるスタートとなりました」
アドバイスする、という形でかかわるようになった根底には、原が抱いていた違和感があった。
「ロックだったり、いわゆるフィジカルなバンドなど、人間が生演奏をする音楽が主流であった時代から、2000年代後半以降、いわゆるクラブミュージックとかヒップホップみたいなものが音楽のカルチャーとして主流になっていきました。すると、その世代の若いスケーターも当然そういうものを日頃から聴いて、自らのプログラムに採用していきます。そういった場合に、いわゆるロシアバレエに端を発するトラディショナルなフィギュア衣装というものがマッチしないケースもあるな、という感覚がありました。この音楽でこの振り付けでこのプレゼンテーションだったらその衣装じゃないんじゃないか、みたいな思いがあって、そういうミスマッチとかズレみたいなものをどうやったら調整できるんだろう、みたいなことは考えていました」
テレビでの大会の放送を目にしたり、あるいはアイスショーにも観に行くなどする機会が増える中で覚えた感覚を抱えながら 音楽の世界にも生き、そこで培った知識や感性、経験をもとにコンサルティングをしていた原は、やがて、自らデザインそのものを行うようになっていった。
一方で、服飾などについて学校で学んだりしてきた経験はない。その中でどのようにデザインを創り上げていったのか。
「僕の場合、衣装をイメージしてデザイン画を描くという作業から始めることはあまりありません。たしかにデザイン画を何パターンか描いて、その中から選んで進めていく、という方法が一般的には多いかもしれません。でも僕の場合、最終的にはデザイン画も作成するんですが、その前にやるべき作業があります」
では原は、どのようにイメージし、そこから進めていくのか。(続く)
原孟俊(はらたけとし)衣装デザイナー。10代の頃からギタリストとして活動を開始、レコーディングやツアーに参加するなど活躍。一方で衣装へのアドバイザーとしての活動も始め、さらにデザイナーとして数々のスケーターの衣装デザインを手掛ける。また「ファンタジー・オン・アイス」「notte stellata」などアイスショーも担当する。Instagram:@taketoshihara