大谷 達也:自動車ライター

DB11から80%近いパーツが新設計

 アストンマーティンDB12は、前作DB11の進化版だ。このため、エクステリアデザインもメカニカルパーツも大幅に変わっているようには思えず、試乗する前は「ひょっとしてDB11のフェイスリフト版?」なんて勘違いしかけたけれど、これが乗ってみると大違い。それもそのはず、ビークル・エンジニアリングでシニアマネージャーを務めるジェイムズ・オーウェンによると、実に80%近いパーツがDB12のために新設計されたそうだ。

 DB12がどれだけ大きく進化したかは、このあと詳述するけれど、そもそもアストンマーティンと言われてもピンとこない読者も少なくないのではないか。かくいう私も、アストンマーティンのキャラクターがおぼろげながら見えてきたのは、恥ずかしながらここ10年ほどのことである。

シリアスなスポーツカーではない

 アストンマーティンの、さらにいえばその主力たるDBシリーズの最大の特徴は、フロントエンジンのプロポーションを基本とするグランドツアラーという点にある。

 そのスタイリングがあまりに流麗でスポーツカー然としていることから、フェラーリのようなピュアスポーツとしての姿をイメージしがちなアストンマーティンだが、ワインディングロードやサーキットでの機敏なハンドリングが売り物のフェラーリに対して、アストンマーティンのスポーツ性能はもう少しマイルドな設定とされていることが多い。

 そしてこの“マイルドさ”を、リラックスしてハイウェイクルージングを楽しめる快適性に割り振ることで、グランドツアラーとしての資質に磨きをかけているのがアストンマーティンの特徴といって間違いないだろう。

 それとともに、もうひとつ指摘しておきたいのが、全身から匂い立つようにして感じられる品のよさと、押しつけがましいところが一切、見られない点にある。

 これはアストンマーティンに限らずイギリス車全般にいえることだが、スタイリングにこれ見よがしなところがなく、スッキリとして控えめであることが少なくない。そういった穏やかな佇まいは、まるで「Look at me!」と大声で叫んでいるようなイタリア車との決定的な違いで、サビルロウで仕立てたスーツを上品に着こなすイギリス紳士を彷彿とさせるものがある。

 これと似た傾向は、ステアリングを握ったときの印象からも見て取れる。

 イタリア製のハイパフォーマンスカーに乗っていると、気持ちが高ぶってどんどんスピードを上げたくなることが少なくないが、イギリス製のハイパフォーマンスカーは、どんなに高性能でもドライバーを「飛ばせ! さあ、飛ばせ!!」とそそのかすようなところがあまりない。だから、リラックスしているときであれば、とりたててスピードを出したいとは思わないし、ゆっくりと走っていても深い満足感を得られることが多い。

 こちらも、品がよくて慎ましいイギリス人を連想させるキャラクターだ。