マティス芸術の集大成、切り紙絵と礼拝堂

 第二次世界大戦が始まり、ニースに空爆の危機が訪れた1943年、マティスは近郊の丘の町ヴァンスに移る。すでに40代後半になっていたマティスの製作意欲は微塵も衰えることなく、「ヴァンス室内画シリーズ」を発表。シリーズ最終作である《赤の大きな室内》は室内画に取り組んできたマティスの集大成といえる一枚。眩しいばかりの赤を貴重とした画面に、窓、机、椅子、花瓶、植物など、マティス絵画の重要なモチーフが詰め込まれている。

 マティスは加齢による体力低下というハンディを克服するために、新しい技法にも挑む。それが「切り紙絵」。紙をグアッシュで彩色し、切り抜いて貼り付けていく。油彩画とはひと味違ったスタイリッシュ感が生まれ、グラフィックデザインを見るような気分で楽しく鑑賞することができる。

20点の図版からなるポートフォリオ《ジャズ》の展示風景

 さらに最晩年には公共の空間づくりに挑戦。それが、ヴァンスのロザリオ礼拝堂だ。マティスは建物の設計をはじめ、装飾や什器、祭服、典礼用品など、すべての制作を手がけた。

ヴァンス礼拝堂、ファザード円形装飾《聖母子》(デッサン)1951年 カトー=カンブレジ・マティス美術館蔵

「マティス展」ではデッサン画や資料、現地の映像、写真などを紹介。マティスが画家の枠に収まらない、総合芸術家であったことが伝わってくる。マティスは4年の歳月をかけてロザリオ礼拝堂を完成させ、その3年後に生涯の幕を閉じた。