かゆいところに手が届いたEVフォルゴーレ
グラントゥーリズモにはV6 3.0リッター・ガソリンターボエンジンを搭載したモデル(試乗したのは高性能版のトロフェオだが、これ以外にエントリーモデルとしてモデナが設定されている)にくわえて、フォルゴーレという名の電気自動車(EV)がラインナップされている。
しかも、このフォルゴーレ、フロントに2基、リアに1基の計3モーターを搭載して761ps、1350Nmというとんでもないパフォーマンスを発揮するほか、2基のモーターで左右の前輪を個別に制御し、ステアリングを切らなくてもクルマ自身が曲がろうとするトルクベクタリングを実現しているのだ。
今回は一般道での試乗が中心だったため、フォルゴーレのトルクベクトリングをはっきりと体感することはできなかったが、コーナーの入り口でブレーキングするとフロントに自然と荷重が移動して前輪の接地感が向上。より安心してターンインできる特性を手に入れていた。こうしたキャラクターは、エンジン車ではお馴染みのものだが、従来のEVではなかなか体験できなかった。その理由は、従来のEVがバッテリーをフロア下の低い位置に搭載することで低重心を実現するいっぽうで、この低重心ゆえにブレーキングしても荷重移動が起きにくいことに起因していた。ところがグラントゥーリズモ・フォルゴーレは運転席と助手席の間を前後に貫くセンタートンネルという部分にバッテリーを搭載することで、荷重移動が起きる程度のほどよい重心高を実現。これによって既存のエンジン車に近いドライビングフィールを生み出していたのである。
実は、グラントゥーリズモのエンジン車にはF1由来の副燃焼室方式(マセラティはこれをツインコンバスチョン・テクノロジーと呼んでいる)がMC20に続いて採用されたほか、ボディはアルミ主体として軽量化を実現するなど、様々な新技術が採り入れられている。それでも、ハンドリング、乗り心地、そしてパワートレインが生み出す感触などはモデルにかかわらずマセラティに共通したもので、スポーツカー並みのパフォーマンスと快適で疲れにくいグラントゥーリズモ性が必ず実現されている。こうした、モデルを越えた鮮やかなキャラクター設定こそが、マセラティならではの味わいといえるものなのだ。