日本は安全確実なオペレーションでブランディングできる
中野 石川、富山、福井を含む広域のブランディングは考えていらっしゃいますか?
高木 「北陸」というくくりでいいですね。ただ、組むときって力が拮抗しないと対等に組めないと思っていて。ブランドとしては北陸のなかでは金沢が突出していますので、富山がブランド化していく必要があります。北陸ってどこか北欧的ですよね。富山は日本のスウェーデンと呼ばれることもありますし。気候的にも近いですし、富山はウェルビーイングの先進地域で、福井も近いことを言っています。北陸は日本の北欧のようなポジションをとればいい。三国で、「北北(ほくほく)同盟」って勝手に言ってるんですが。
中野 「富山は日本のスウェーデン」って井出栄策さんの著書のタイトルでもありますね。公教育の水準の高さ、貧困の少なさ、待機児童ゼロなど「豊かさ」の水準が高いということで富山をスウェーデンになぞらえた本です。「北北同盟」、社会がめざす方向としても語感的にも、相性はばっちりですね。では、地域のスケールを超えて、日本全体を世界にブランディングしていくとしたらどうでしょう?
高木 個人的には、日本に来てもらうのは食・文化、出ていくのはオペレーションと考えています。食はハイエンドから町の定食屋までレベルが高いので、食を起点とした文化で売れます。
ただ、これは大きい産業にはなりにくいです。大きい産業で考えるとすれば、オペレーションでしょうか。たとえば日本のタクシーは世界一です。新幹線のオペレーションも圧倒的に優秀です。巨大な渋谷駅の工事を2日間でやってしまうというオペレーションなんて、世界広しといえど日本にしかないでしょう。技術の発明では勝てないかもしれないですが、それを運用するのは日本が得意だと思っています。この運用技術を世界に輸出したら、需要があります。
たとえるならば、日本は世界の「アクセンチュア」を目指すのです。空港のオペレーションなども、日本人が行って教育するのです。空港、駅、タクシーといった主要交通のオペレーションを握るって外交上、強いですよね。
中野 斬新です。オペレーションでブランディングするという発想がそもそもありませんでした。実際、日本の鉄道は世界で最も時間に正確という定評があって、その強みに基づいた国際規格も規定されていますね。日本はこの分野で国際的なリーダーシップをとっていける、というか、すでにとっているといっていい。鉄道事業者が海外展開して世界のリーダーになるという可能性はきわめて大きいように思えます。
高木 オペレーションを通じて、安全を売るのです。「セコム」とか「コマツ」など、強いですよね。「日本=安全」というブランディングができます。
中野 「日本=安全」というキーワード、それこそ「外」の視点だからこそ見える長所ですね。日ごろ、それこそ空気のように「安全」に浸りきっているので意識的に見えてはいませんでした。日本を世界に売るといえば、アニメ、原宿、和の伝統というコンテンツになりがちでした。来日するファッションデザイナーも、相変わらずそのあたりを絶賛していきますし。
高木 コンテンツは正直、韓国が圧倒的ですよね。中国もすごい勢いです。ゲームはまだ日本が強いですが、それで大きな日本を支えられるのかというと、僕にはわかりません。そういった意味でも、各地域の経済がそれぞれ自立するのが大事になってきますよね。
中野 富山、北陸、日本、と地域ブランディングの現在進行形の計画はじめ、構想やアイディアまで伺ってきましたが、地域ブランディングをおこなうにあたって、最も大切なことは何でしょうか?
高木 いろいろありますが、まずは外の目線でシンプルにとらえなおすことでしょうか。たとえば、香川県はある意味、振り切っていますよね。「うどん県」。あれくらいわりきるのは大事です。そういうおもしろい発想をする地域に行きたいじゃないですか。
富山を「寿司の聖地」と言うと、行政は山側で暮らす人が「それは海側の文化や」って言うことを心配するんですけれど、世界の人から見たら、車で一時間もいけるところなんて「ほぼ海沿い」ですよ(笑) 。そんなふうに世界目線で、俯瞰した目線で見ることが大切です。外の目線から見た価値で絞りなおす、そこからブランディングが始まります。
中野 ありがとうございました。地域ブランドが確立すれば、多くの人やエネルギーが集まり、観光・移住・地方創生に好循環をもたらすことが期待できます。地域全体が幸福になる結果として、地域で生み出される製品やサービスの付加価値を堂々と上げる基盤が創られるとも思っています。高木さんの今後のブランディング戦略に注目していきます。