情報発信し、外に向けて開放することで未来は開ける
中野 逆にブランディングしていくなかでの富山の弱みとは何だと思われますか?
高木 富山に限らずどこの地方でもそうですが、何が世の中的に価値があるのかの判断基準をもてないことでしょうか。魅力があっても当たり前になっているので。
中野 外からの視点で指摘されないと、もともとあるものに何の意味や魅力があるのか、わからないことは多いですよね。内川地区や東岩瀬地区では昔からあったものを活かしたリノベが進み、観光地としても開発されていて、魅力が増した印象です。一方、それによってもとから住んでいた人たちが違和感を覚えているという話も聞こえてきます。
高木 自分たちのわかるものだけがある、というのが「村」の発想なのです。同じような人しかいない村社会よりも、多様性のある環境のほうがイノベーションが生まれます。それがいずれ産業や仕事になる。強烈な警戒心は、インバウンドのようなチャンスをなくしてしまいます。
中野 「村」的な発想は、富山県が他県に比べても、25歳から35歳の女性が県外に出ていっているという成長戦略会議での課題感ともつながりそうです。もちろん、この問題は性別役割的な仕事観や家族観など、さまざまな要因がからんでくるので単純なものではありませんが。情報の流れも要因としてあります。外で起きている楽しそうなことが流れてくるばかりという。
高木 これがイケてる!という情報は東京から入ってくるもので、その逆はあまり経験していないのです。東岩瀬の開発を進めた桝田さんらは自分たちで価値発信しています。それを見て、クラフト作家やシェフなど外から集まってきています。そういう自発的な流れをもっと作ったほうがいいですね。
中野 クラフト作家を集めるといえば、住んでいる人だけに固執しない、「関係人口」1000万を掲げていますね。
高木 住む人だけではなく、富山に旅したり、一時的に仕事したりなど、何らかの形で関わってくる人の数が関係人口です。ぼくは「SUSHIを起点に幸せ人口1000万」を掲げています。そのためにはいろんな才能が集まったり、関わったりしてくれなきゃいけないのですが、それを富山の人が警戒するというのはよいことではないですね。いろんな人が入ってくる状態にするしかないのです。慣れていただかないと、未来はないのです。
中野 多拠点居住の人を受け入れることにもつながれば、開放的になり、若い女性が出ていってしまう問題の解消にもよい影響を及ぼしそうです。閉鎖的な環境は安心感をもたらすこともあるとは思いますが、一方で息苦しさや閉塞感につながると思うので。
高木 富山の有名な工芸ブランド「能作」の会長もたしか福井から来た方だし、「アジアのベストレストラン」60位にも登場した「レヴォ」の谷口シェフも大阪の人です。内川を開発した明石さんも尾道から来ています。そのほかの場所も、一度、東京や海外に出た人が関わることで面白い場所になっているという現実に目を向けた方がいいですね。