理論を実践で活かすには?
そのカリキュラムとは、小さめの楕円形コースを前半と後半にわけ、前半は車速20km/hからステアリングを切ったままアクセルペダルを大きく踏み込んでリアタイヤを滑らせるパワースライド、後半は60km/hからステアリングを切り込んでからブレーキを踏み込んでリアタイヤを滑らせるブレーキングドリフトというテクニックを身につけるというもの。つまり前半はフリクションサークルの原理で後輪のグリップを失わせ、前半は荷重移動の原理で同じく後輪のグリップを失わせることになる。結果として起きる現象は同じだけれど、パワースライドはアクセル操作がきっかけとなるのでコーナー出口で有効、いっぽうでブレーキングドリフトはブレーキがきっかけとなるのでコーナー入り口で有効と、活用できる場所が違ってくる。裏を返せば、このふたつを組み合わせることで、コーナー入り口でもコーナー出口でも、どこでもオーバーステアの態勢を作れることになる。
雪や氷のうえで、クルマが曲がりにくくなるアンダーステアを引き出すのは簡単だ。前輪に荷重をかけないまま、ぐっと勢いよくハンドルを切り込めば、大抵アンダーステアになる。アンダーステアになれば、前述のとおり思いどおりクルマが曲がってくれなくなるから、コーナーを曲がりきれずにアクシデントを起こす可能性が高まる。これを補正するのがブレーキングドリフトやパワースライドといったオーバーステアに持ち込むテクニック。つまり、雪道や氷結路を走行中にいざという事態が起きたとき、もっとも重要になるのがオーバーステアにするテクニックだといっても過言ではないのだ。
もっとも、パワースライドやブレーキングドリフトを実践するには、どのタイミングでどれくらいステアリング、アクセル、ブレーキなどを操作するかがもっとも大切になる。だから、いちおうの基礎が呑み込めたら、あとはいろいろな曲率で、いろいろな角度まで曲がり込んだコーナーを数多くこなして、どんな状況でも狙いどおりにブレーキングドリフトやパワースライドを引き出せるようになるかが重要。したがって、アイスエクスペリエンスのカリキュラムの、残り2日間はすべてその練習に充てられるようなもので、とにかく走って走って走り続ける。といっても、ふたりひと組なので、ペアを組むパートナーがドライビングしている間は休めるし、ランチは近くの立派なレストランで、コーヒーブレイクは会場内のかわいらしい小屋(まるでムーミンの物語に出てきそう!)で過ごすので、ツライ思いをすることはない。そうそう、清潔なトイレがいつでも使えることも、アイス・エクスペリエンスの魅力的なところだ。
大谷達也が考えるレベルアップのポイント
ところで、私は冒頭で「スノー・ドライビングやアイス・ドライビングは日常的なドライビングのレベルアップに役立つ」という主旨のことを申し上げたけれど、その最大のポイントは荷重移動にある。ブレーキやアクセルを使って微妙な荷重移動を行えば、普段走る道もより安定して、乗員にもより深い安心感を与えられることは間違いない。こうしたテクニックを磨くうえでも、アイス・エクスペリエンスは極めて大きな効果があったと自信を持って請け負える。
もちろん、日本国内にだってこれと似たようなことを学べるトレーニングはあるだろう。けれども、ヨーロッパで開催されるアウディ・ドイライビング・エクスペリエンスは、コースの規模と質、走り込める時間の量、インストラクターの能力の高さという点において、日本ではなかなか体験できない優れたレベルにある。もちろん、RS4アヴァントという魅力的なハイパフォーマンスカーを思いっきり振り回せるのも特徴のひとつ。このアイス・エクスペリエンス以外にも、アウディ・ジャパンのウェブサイトにはアウディ・ドライビング・エクスペリエンスの様々なコースが順次紹介されるようだから、興味のある方はチェックしてみるといいだろう。