(向かって左から)
NTTコミュニケーションズ株式会社
イノベーションセンター テクノロジー部門
ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートファクトリー推進室 兼務
担当部長 伊藤 浩二氏

横河ソリューションサービス株式会社
ソリューションビジネス本部 コンサルティング2部 淺村 和人氏

 日本のものづくりは今、大きな局面を迎えている。少子高齢化で労働人口が減少し、工場などの現場で働く人材の確保は難しくなるばかりだ。特に熟練工の優れた技術をいかに継承していくのか課題を感じる現場が多い。そこで注目を集めているのがAIの活用である。今回はNTTコミュニケーションズのデータ利活用基盤「Smart Data Platform」のデータ分析機能のひとつである、ノーコードAI開発ツール「Node-AI」が、製造業の現場にもたらすイノベーションを紹介。あわせて横河ソリューションサービスと共同開発した、AIでプラントを自動運転する「オートパイロット」への導入事例について、プロジェクトの担当者に聞いた。

※本稿は、2023年3月16日(木)に開催された、NTTコミュニケーションズ株式会社主催「Data Innovation Forum~企業競争力を強化する『ハイブリッドワーク』と『データ活用』」のセッション3「運転員の操作を学習したAIでプラントを自動運転する『オートパイロット』の実現〜『Node-AI』によるAIモデル開発の効率化〜」の内容をもとに改めて構成いたしました。

NTTコミュニケーションズが「Smart World」で提供する新しい価値

 現代の企業を取り巻く経営リスクは、多様化の一途をたどっている。従来、デジタルをいかに活用して市場や産業構造の変化に対応していくか、そこからいかに新たなビジネスモデルを創出するかが叫ばれ、昨今のDX推進の大きなトレンドにつながってきたのは周知の通りだ。

 加えて2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機とするテレワークの拡大や、SDGsへの関心の高まりにも見られるように、人々の働き方や企業が環境や社会に担う役割が一層重視されるようになっている。こうした経営におけるニーズとトレンドの変化に対して、NTTコミュニケーションズも積極的に解決に取り組んでいると、伊藤浩二氏は語る。

「ここで私たちが取り組んでいる価値を表すキーワードが、『Smart World』です。企業や社会の持続的成長のためにサステナブルな社会を実現するには、従来の産業や経済のDXだけでなく、地域社会や人々の生活を重視した健康経営、さらに環境に貢献するDXも不可欠です。これら3つのトランスフォーメーションによって、Smart Worldを現実のものにしようというのが、私たちのコンセプトなのです」

 3つのトランスフォーメーションとは、WX(ワークスタイルトランスフォーメーション:リアルとテレワークの融合による、ワークスタイル変革)、DX(特にデータの利活用に重点を置いた、経営や営業戦略の推進)、そしてGX(グリーントランスフォーメーション:カーボンニュートラル推進を中心とした、環境負荷やエネルギーロスの削減)を指す。

 この中から今回は、「DX=データの利活用に重点を置いた、経営や営業戦略の推進」にフォーカスした導入事例として、横河ソリューションサービスの「オートパイロット」の取り組みを紹介する。同社では、NTTコミュニケーションズの「Node-AI」を採用し、ものづくりの現場における課題解決に挑戦している。

 ノーコードAI開発ツール「Node-AI」を活用することで、現場の熟練技術者をはじめ共創プロジェクト内の声を集めながら、高度な自動運転の仕組みとアジャイルな継続開発の体制を実現したケースをぜひ参考にしていただきたい。

実用性評価実験では、人手に比べて大幅な運転の安定化を実証(横河ソリューションサービス)

 ここからは、横河ソリューションサービスと共同開発した、AIによるプラント自動運転「オートパイロット」と、そのためのNode-AIによるAIモデル開発について、AIモデル開発を担当する淺村和人氏と、NTTコミュニケーションズでプロダクトマネジメントを担当する伊藤浩二氏に語っていただいた。

伊藤浩二氏(以下、伊藤) まず、今回の「オートパイロット」の開発背景や狙いについてお聞かせいただけますか。

横河ソリューションサービス株式会社
ソリューションビジネス本部
コンサルティング2部
淺村 和人氏

淺村和人氏(以下、淺村) このソリューションは、製造プラントの運転員が手動で行ってきた運転を支援することを目的に開発しました。近年、高付加価値の高機能製品の製造や変種変量生産が多くなっているため、難易度の高い運転が必要となり、運転員の手動運転を余儀なくされていました。

 この手動運転には、大きく2つの課題があります。1つは運転品質のばらつき、もう1つは技能伝承の難しさです。前者はプロセスが不安定になりやすく、原料や燃料の無駄につながる可能性があります。また後者は、明文化できないノウハウの伝承が難しく、人材育成のコストが膨らむという課題です。

伊藤 それらの課題解決のために開発された「オートパイロット」の仕組みについて教えてください。

淺村 「オートパイロット」では、運転員がどんな環境でどのような操作をしたかをAIで学習して、それを自動運転の機能として再現しています。特徴としては、大きく3つあります。1つ目は、そうした熟練運転員の運転データと操作履歴さえあれば、これまでの技術では難しかった箇所でも自動運転できるようになります。2つ目は、高い安全性と継続性です。3つ目は、自動再学習によって状況の変化に柔軟に対応できるようになります。

「オートパイロット」には、運転の効率化、人の感覚に適合した運転の実現、運転の属人性の排除、高頻度な運転が可能などのメリットが期待できます。つまり、人間に比べて、毎分その時に的確な操作で安定した運転ができるようになるのです。

 2022年12月には、化学プラントで実用性評価実験を実施し、24時間の連続運転を行いました。この実験では、目的とする運転状態にいかに近づけて安定化できるかを確認しました。結果、AIによる自動運転時は運転員の操作に比べ目標達成度で33~51%、ばらつきにおいて19~28%改善と、大幅な安定化が見られました。

Node-AIの多彩な機能が、開発品質と効率アップを支援

伊藤 今回はAIモデル開発の効率化のために、当社のノーコードAI開発ツール Node-AIを採用いただきました。実際に使ってみた感想をお聞かせください。

淺村 今回のようなケースでは、個別の知見を用いて個別のAIモデルを開発する必要があるため、開発コストや開発期間が膨大になるリスクがあります。その観点からも、Node-AIは見た目も非常に分かりやすく使いやすい。キャンバスの中にカードを配置してつなぐことでモデルをつくっていくのですが「これは作業の効率化が図れるな」というのが第一印象です。私自身、AIモデルの開発に取り組んだのは初めてでしたが、基本的な操作は1時間ほどでできるようになりました。

Node-AIの操作イメージ。カード(モジュール)を直感的につなげるだけで一連のパイプラインを作成・実行できる。
拡大画像表示

伊藤 AIモデルの開発では試行錯誤することも少なくないと思いますが、特に役に立った機能はありますか。

淺村 Node-AIには、いろいろ便利な機能が搭載されているのですが、個別のAIモデルの開発案件を複数並行して進める上では、「レシピの保存機能」がかなり役に立ちました。これはある案件で使った作業者のノウハウを、そのまま再利用できるというものです。複数案件を回していくには並列化と効率化が不可欠ですが、その点で非常に役立った機能だと思います。

伊藤 どうしても「このパラメーターを少しだけ変えてみよう」「変更前のパラメーターに戻そう」といった細かな試行錯誤もあるのではないでしょうか。

淺村 そうですね。例えば、現場の運転員のノウハウをAIに移行する際は「複数カードの同時実行機能」が非常に有効でした。これは1つの機能を実行すると、そこにひも付けられたさまざまな機能が次々に連鎖して実行され、最終結果までが自動的に出てくる仕組みです。

伊藤 今回のプロジェクトにはさまざまな立場の方が参加されていて、中には機械学習やAIに慣れていない方もいらっしゃると思います。そのような方とのやり取りはいかがでしたか。

淺村 やはり、いろいろな職業職種の方がプロジェクトに携わりますので、情報共有には工夫が必要でした。Node-AIの画面上では、チューニングの条件や試行錯誤の履歴、結果の考察を表示し、そのモデルの開発担当者以外にも情報が共有される環境にしています。こうすることで、プロセスに関する知見をお持ちの方からご意見やアドバイスをいただき、工程の効率化を図れると考えています。

 パラメーターのチューニングともなると、プラントの現場スタッフの方々から綿密にヒアリングするように心掛けています。時にはスタッフも気付いていない因子が見つかることもあり、その際は情報を共有、ディスカッションしています。

伊藤 なるほど。例えばプラントの場合、非常に膨大な数の変数があるのではないかと思いますが、困ったことなどはありましたか。

淺村 そうですね。1つの系列だけでも100では収まらない、数千ほどのタグが集まっていますので、そこからいかにターゲットに関連するタグを抽出してモデル化できるかという点が、なかなか難しいですね。そこはNode-AIの「重要度可視化ツール」を活用して対応しています。

NTTコミュニケーションズ株式会社
イノベーションセンター
テクノロジー部門 担当部長
伊藤 浩二氏

伊藤 ここまでお話を伺って、横河ソリューションサービスさまでは、Node-AIの特性をよく理解された上で、それらを目標の実現にうまく活用されていることが分かり、大変うれしく思います。

 私から1つ補足させていただきますと、今回ご紹介いただいた「オートパイロット」とNode-AIは「開発してそこで完成」ではなく「日々アジャイルに進化している」という点に大きな特徴があります。

 現場でお使いいただいている皆さまに、さまざまなご感想やご要望を伺って、それを次々にソリューションにフィードバックしていく。そうすることでより高度な機能へと進化していきます。また、開発をより簡単かつ効率的に行うためにNode-AIの「ノーコードAI開発ツール」というコンセプトが、きっとお役に立つと確信しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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 日本のものづくりの現場には、課題が山積している一方、多くの可能性が秘められているのも確かだ。今回紹介した横河ソリューションサービスでの活用例のように、今後もNTTコミュニケーションズの「Smart Data Platform」「Node-AI」が製造業の課題解決、さらなる発展に寄与していくことだろう。

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