加賀にきて驚くことのひとつに水の美味しさがあります。霊峰白山の山頂から流れる雪解け水は手取川水系となって、美味しいお米や野菜を育てています。そして、長い年月をかけて地中を流れる白山を源とする伏流水は、酒づくりにも最適で、名だたる銘酒を醸してきました。加賀市にある三つの酒蔵と、伝説の杜氏を迎え、オリジナル地酒を開発した山代のお酒について、山代酒商小売組合代表で「純米酒やましろ」実行委員長、河畑孝夫さんにお話を伺いました。
文=山口 謠司 取材協力=春燈社(小西眞由美) 写真提供=山代酒商小売組合
酒どころ加賀の銘酒
これまでに紹介した山代の亀寿司さんや、大聖寺のばん亭さんでも、料理に合う美味しい地酒を揃えていました。地元の海や山の幸を使った料理には、地元のお酒がいちばん合う、とご主人たちも口を揃えておっしゃいます。
加賀市には「常きげん」で有名な狩野(かの)酒造、「獅子の里」の松浦酒造、「大日盛」の橋本酒造という3つの酒蔵があります。
狩野酒造では自社の田で酒米山田錦を育て、蓮如商人に由来する「白水の井戸」の水を使い、純米酒、吟醸酒、醸造酒を作っています。純米大吟醸の「KISS OF FIRE」というお酒は、2012年、2013年のノーベル賞ナイトキャップパーティで出され、海外でも評価されているお酒です。また、狩野酒造が得意とするのは手間隙をかけて醸す山廃仕込の酒。山吹色をしたコシが強く濃厚で鋭いキレ味。和洋中、どんな料理にもよく合います。
山中温泉の中心地にある松浦酒造の「獅子の里」は、超軟水の仕込み水を生かしたやさしい味わいの食中酒です。全量、純米仕込み・限定吸水・泡あり酵母で醸し、香りが良く、後味がすっきりしています。食中酒というだけあって、料理を引き立て、料理と一緒に楽しめます。
橋本酒造は創業が宝暦10年(1760)から続く酒蔵で、現在の当主は十代目です。大日山から流れ出る水と酒米山田錦を使って、能登杜氏・前良平さんのもと酒造りをしています。橋本酒造の歴史を集大成した酒が「純米大吟醸 十代目」。まろやかさのなかにもキレのある深い味わいです。併設する「大日盛酒蔵資料館」では、昔の酒造りに使った道具が展示され、無料で試飲もできます。