文=松原孝臣
髙橋は2013年以来、9年ぶりの出場
その言葉は、ある意味、象徴的だった。
「久々すぎて(笑)。トップの選手たちと試合をできる楽しさの方が大きいかなと思います」
10月下旬に行われたグランプリシリーズの開幕戦、スケートアメリカのアイスダンスに村元哉中とともに出場した髙橋大輔が語ったひとことだ。
この大会で、村元と髙橋は6位の成績を残しているが、髙橋にとって、スケートアメリカは2013年以来、実に9年ぶりの出場であった。
競技人生が相対的に長くはないフィギュアスケートにあって「9年」という数字は、あらためて髙橋の足跡を思わせた。
2010年バンクーバーオリンピックで銅メダルを獲得、同シーズンの世界選手権で優勝するなどシングルで数々の実績を残したあと、2014年秋に一度は競技生活から引退。それから4年、32歳で現役復帰を表明したのち、髙橋は村元をパートナーとしアイスダンスに挑戦。今季で3シーズン目を迎える。
2020-2021シーズンの初年度に可能性を示した2人は昨シーズン、飛躍的な成長を見せた。それは成績にも如実に表れた。
NHK杯では前年から22点強得点を伸ばして179・50点、日本歴代最高得点をマークし6位に。翌週のワルシャワ杯ではさらに得点を伸ばし190・16点で2位となった。
全日本選手権2位の結果を受けて出場した四大陸選手権で銀メダルを獲得した2人は世界選手権に出場する。この大会では15位の結果を残し、シーズンを締めくくった。
その先のことを決めてはいなかった。
今後を尋ねられ、髙橋は答えている。
「とりあえず世界選手権が今、終わったばっかりで。この2年間、突っ走ってきたので気持ちにバケーションをあげてしっかり考えたいです」
ただ、2人の言葉の端々には、未来を思わせる色が込められていた。
髙橋は言った。
「僕はゼロからのスタートだったので、ほんとうに成長しかなかったです。先シーズンはアイスダンサーという実感がなかったんですけど、今シーズンに入ってアイスダンサーになれたのかなと少しずつ思えるようになってきました。ポテンシャルとしてはまだまだ。まだ先のことは決めてないですけど。これで100%ではないと感じていて、まだ成長過程なんじゃないかと思っています」
村元もこう語っている。
「ひとことで言うと、ほんとうに、これだけ試合が終わって悔しいと思ったのは初めてで。練習ですごい、ほんとうにすごいいい練習が積めて自信を持って挑んだ試合の中で、練習でしないミスとかが出てしまうというのが、ほんとうに何でだろうと」
「100%ではない」「まだ成長過程」と髙橋が言ったのは、自分たちの伸びしろを実感していたからにほかならない。村元の「悔しい」もまた、もっとやれる、という思いあればこそだ。先のことを決めていなくても、2人の気持ちが向かう先と結論を予兆する言葉がそこにあった。