キンドリルジャパン株式会社 ストラテジックサービス本部 クラウドテクノロジーサービス 事業部 事業部長
橋本寛人氏

 不透明かつ変化の激しい時代の中、DX推進の一環として積極的にクラウドを導入、あるいは検討中の企業が急増している。DXの領域でクラウドフトが注目を集める理由は何なのか。エンタープライズITのインフラサービスプロバイダとして豊富な実績を持つ、キンドリルジャパンに聞いた。

企業にはビジネスの変化に即応するインフラが求められている

 今、DX推進に取り組む企業が、競うようにクラウドシフトを進めている。だが、クラウドが具体的にどうDXに役立つのか尋ねられて、即答できるビジネスパーソンは何人いるだろうか。それを知るためにも「まずクラウドを活用する目的と、それがもたらすメリットを明確に理解することが必要です」と、キンドリルジャパン株式会社 ストラテジックサービス本部 クラウドテクノロジーサービス事業部 事業部長 橋本寛人氏は強調する。

 米国に本社を置く同社は、2021年にIBMのインフラストラクチャ・サービス部門が独立して設立され、日本国内でも企業のIT活用における戦略策定から設計・構築そして運用までをエンドツーエンドのサービスで支援している。その中でもクラウドの導入・活用に関するサービスは、現在最も力を入れている分野の1つだ。

「デジタルがもたらす大きな変化の中で、企業には新しいビジネスモデルの創出と、その実践に向けた組織やカルチャーの変革が求められています。ITシステムも変化に合わせ必要な機能やサービスを即実現し、市場の変化に負けないスピードでビジネスを支えていく必要があります」

変化に負けないスピード感がDX推進を強力に支える

 クラウドをDXの基盤に導入した場合、どんなメリットがあるのだろうか。橋本氏は大きく2つのビジネス面での変革を挙げる。

「1つ目は、スピードです。ビジネスにおけるDXでは、いかに新しい商品やサービスを迅速に、次々と提供していくかが問われます。現在のクラウドにはそれを実現する多種多様なデジタルサービスが提供されていて、例えばプログラミングの専門知識がない社員でも、必要な時にすばやくアプリケーションを開発し、展開するということが可能です」

 2つ目は「変化に対する柔軟性と適応力」だ。刻々と変化する市場において、従来のオンプレミス型(IT環境の調達・運用を自社で行う形態)でのシステム開発では、とても間に合わない。その点システムの変更・追加・廃止が容易なクラウドならば、ビジネスの変化に柔軟な対応が可能なDX基盤が実現できるのだ。

「現在、世界的な半導体の供給不足で、新しくシステムを導入しようにもサーバーなどのハードウエアが入手できない状況が続いています。その点でもクラウドならば、ビジネスのタイミングを逃す心配がない。世の中の変化や危機に強いという意味でも、クラウドは選択必至のインフラなのです」

 だが一方で、そのメリットを確実に享受するにはいくつか課題があると橋本氏は示唆する。中でも多く見られるのが、各事業部門がそれぞれ独自にクラウドの利用を始め、重複した機能が企業の中に乱立する、いわゆる「シャドーIT」のケースだ。

「それによりナレッジやスキル、ツールを社内共有できない状況を生み出し、結果としてクラウドの支出が不明瞭になり、コストの最適化ができない、またセキュリティホールが生まれる状況に陥ります。そして、常に更新されるクラウドの進化に追随した運用が難しくなり、クラウドを利用したにもかかわらず運用コストが上がるという結果も招きかねません。個別ではなく、全社的に統括するための管理や人材が求められてきます」

社内横断型の組織によるクラウド運用でDXを加速させる

 その上で、クラウド活用の課題の最適解として、まず橋本氏は「ハイブリッドクラウド」という運用スタイルを挙げる。

「これは一言で言うと、AWSやMicrosoft Azureのような、いわゆるパブリッククラウド(インターネット経由で利用するアプリケーションやサービス)とオンプレミスとを組み合わせたシステム形態のことです。オンプレミス上にある、蓄積された多くのデータやアプリケーションなどの既存の資産をこれまで通り活用しながら、徐々にクラウドの世界に足を踏み入れていける。両者の『いいとこどり』が可能なハイブリッドクラウドは、スムーズなクラウド導入への現実的かつ有効な選択肢です」

 キンドリルジャパンがクラウド導入支援を提供している企業にも、ハイブリッドクラウドを採用しているケースは非常に多いという。その運用に当たり橋本氏は「お勧めしたいのが、CCoE(クラウド・センター・オブ・エクセレンス)の導入です」と提言する。

 CCoEとは、IT部門をはじめ事業部門やセキュリティ部門も含めて、全社から集まった担当者で組織されたチームのことを指す。クラウドの技術面はもちろん、経営層やビジネス現場からの要望を取りまとめながら、クラウド導入・活用、そのための人財育成まで全社的な視点で俯瞰しながら推進する、社内横断のクラウド専任組織だ。

「クラウド活用の推進には、全社が同じ方向を向いて進める仕組み、仕掛け、体制づくりが求められます。その視点と実行力を持ち、クラウド推進を率いる運用組織として、CCoEは不可欠です。CCoEは経営層と現場とをつなぐハブとなり、継続した現場からのフィードバックループを回すことも重要な役割となります。またCCoEによりセキュリティを含めたルールが明確化されることで、ビジネスサイドの要望を推進し、後押しすることができるのです。まずは経営層がCCoEのリーダーを任命し、クラウドの活用が成功し続けるようサポートすることが大切です。その際、全てを内製化するのではなく、場合によっては専門家に任せ、浮いたリソースを社内の別のDX推進に再分配するという考え方も重要になるでしょう」と語る橋本氏。

 クラウドをDXの基盤として、いかに自社のビジネスに活用していくか。それには全社横断的に、かつ組織の枠にとらわれない形でクラウドの活用を推進するCCoEが鍵となる。これからクラウドを活用してDX推進を加速させようと考えている企業は、ぜひハイブリッドクラウドとCCoEという組み合わせを検討してみてはどうだろう。

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