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日本アイ・ビー・エム株式会社
専務執行役員 テクノロジー事業本部長
三浦 美穂氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部 戦略コンサルティンググループ 技術戦略リーダー パートナー
多摩大学大学院MBA 客員教授
前田 英志氏

 デジタル・テクノロジーに関心を持ち、デジタル投資に注力する企業が増えている。しかし、生産性向上などの成果につながっていないという。その要因や、変革の実現に必要な取り組みについて、日本アイ・ビー・エム(IBM)で、多くの企業の課題解決を支援する2人が語った。

日本企業のデジタル化率、労働生産性はともにOECD平均以下の衝撃

前田 IBMが世界の2500名のCIO(最高情報責任者)に行った「テクノロジーの成熟度」に関するインタビュー(2021年)によると、「ハイブリッドクラウド運用」「データ洞察とAI」の伸び率が最も高く、伸びしろもあることが分かりました。しかし、日本はデジタル化率、労働生産性ともOECD(経済協力開発機構)平均よりも低いのです。

三浦 それはなぜでしょうか。

前田 テクノロジーに関する意識の差だと思います。別の調査でCEO(最高経営責任者)に「今後2、3年で成果を出すために最も助けになるテクノロジー」を聞くと、日本では高速通信規格5G、音声技術などの要素技術への意識が高く、先進アナリティクス、クラウド・コンピューティングなどの基盤技術に対しては低いという結果でした。

三浦 テクノロジーリーダーの役割は、企業経営に関わるIT基盤を長期的視点で考えることだと思います。要素技術・基盤技術という話があるにしても、日本企業はかなり投資しているのに、デジタル化率が低いのはなぜでしょうか。

前田 デジタル投資がデジタル化率や生産性の向上に資していないからです。日本のCIOに「デジタル変革における最大の課題」を聞くと、「組織の複雑性」「レガシーシステムとアーキテクチャーの制約」「従業員による変化への抵抗」など20年前と同じことを挙げる人が多くいらっしゃいます。

三浦 それは昔から指摘されてきたことですが、今、具体的にどのようなことが起きていますか。

前田 従来は事業部単位で物事を考えていましたが、データドリブンな取り組みにより、データの資産化、業務の高度化、自動化が進み、事業や機能を横断する骨太の取り組みがなされつつあり、みんな重要性は理解するものの、難度が高くてうまくいってないのです。

デジタル・テクノロジーを“企業変革”につなぐ8項目

三浦 では、デジタル・テクノロジーを企業変革につなぐにはどうすればいいのでしょうか。

前田 まず、今起きている現象を本質的に理解し、その上で対症療法ではなく、根本的解決に取り組むことが大切です。デジタル変革において準備すべき項目は、8つあると考えます。

 最近、「レディネス(準備性)」という言葉をデジタル戦略の文脈で耳にします。「戦略」「組織・人財」「テクノロジー・データ」「行動様式」という4つの要素、8つのレディネスの観点から、自社がどこを高める必要があるかを考えるとよいと思います。

三浦 せっかくデータドリブンに取り組んでも、組織やスキルが伴わないと、投資がビジネスの成長につながりませんね。では、どこから着手すべきでしょうか。

前田 まずは「戦略」の「北極星・レディネス」で目指す姿を明確にした上で、「テクノロジー・データ」領域のレディネスを上げていく。これを起爆剤として、変化に時間がかかる「組織・人財」「行動様式」に影響を与えていくストーリーが成果を生むと思います。

三浦 新しいテクノロジーリーダーのもと長期的視点に立ち、全体をデザインし直すのですね。他社のまねではなく、自社に本当に必要なものを選択することが重要です。テクノロジーリーダーの役割として、どのようなアクションが期待されますか。

前田 3つあります。1つ目は「責任あるリーダーシップを発揮する」こと。ITやデジタル等の機能にとらわれず、枠を超えて考えていただきたい。2つ目は「大胆な未来を描き、投資する」こと。テクノロジーで描いた夢をみんなに伝えてほしい。ただし、投資には科学的手法を取り入れ、博打にしないことが大切です。3つ目は「思いがけないパートナーと新たな可能性を追求する」こと。理念を共有するパートナーを見つけ、会社の枠を超えて共創を広めるのです。

三浦 最後に、デジタル・テクノロジーを企業変革につなげるために、どうすべきでしょうか。

前田 私は掛け算だと思っています。まず、先程のレディネスを向上する順番を考え、思い切って進め、その上で「レディネスに合わせたデジタル・テクノロジーの積極活用」を展開すべきです。

三浦 掛け算ですから、2つを同じタイミングで大きくしていくことが大切ですね。

前田 そうですね。この掛け算が「企業変革によるビジネス価値」を創出すると、われわれは確信しています。躊躇することなく、ぜひ思い切って展開していただきたいです。

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