話し合いで決める民主主義と環境保全、新しいラグジュアリーの光景

 さて、最後にニセコという町に見る、根源的で先進的な民主主義について。

 厳密にいえば、光のインスタレーションが展開されたHANAZONOリゾートがある町は倶知安町であり、ニセコ町は隣町である。この二つの町と岩内町、共和町、蘭越町を含む山岳丘陵地域が、ニセコ地域と総称されている。うち、外国人観光客に人気の高い倶知安町、ニセコ町、蘭越町をニセコ観光圏と呼んでいる。

 この観光圏の名前にもなっているニセコという町が、次世代の幸福を見据えたユニークな政治をおこなっているのである。

 ニセコ町は人口約5000人の小さな町であるが、転入者が多い町でもある。転入者の多くは、まずは留学や旅行に訪れ、何度も来るうちに町が好きになり、ついには住んでしまう。

 ニセコ町役場が転入者に対しておこなったアンケートによれば、医療や教育が充実していたり、外国人も違和感なく住める多様性や自由な気風があったりということが移住の理由とされている。だが、町役場に行き、副町長の山本契太氏はじめ役場の方々にお話を聞いて腑に落ちたのは、この町には理想的な民主主義が根付いているということだった。

改装されて間もないニセコ町役場

 ニセコ町の景観は独特である。周囲のリゾートとは異なり、高いビルが建っていない。景観条例があるためだ。ただし、高さ10メートル以上の建物を禁止というふうに具体的な規則を定めるのではなく、「話し合いで決める」と書いてある。「15mと数値を定めると、権利になるのです。14.99mならいいんですよね、となる。そうではなくて、住民と業者の間で納得と協力のプロセスを踏んでもらうのです」と山本副町長は語る。「いまだに5回目の話し合いをしているところもありますが、それが民主主義のコストというものだと思います」。

 情報がすべて公開され、話し合いが活発に行われることが大前提となる「まちづくり基本条例」は、町民が「育てていく条例」として位置づけられており、罰則もない。あらゆる場面で「話し合いで決める」ことが前提となっており、議論の過程で住民も落としどころを学びながら、町づくりを考えることになる。

「言ってもしょうがない」という絶望感が皆無どころか、一人一人が尊重され、議論が自由に交わされているのである。世界中から資本家だけでなく、アーチストを含む多彩な人を惹きつけるニセコの根本的な魅力は、町の政治にあったのだ。海外資本もそんなニセコだからこそ価値が高いことを知っているから、資本の力で暴力的な開発をすることはなく、町民の幸福と共存するようなやり方を創ろうと工夫するのだろう。

 ニセコは政府から環境モデル都市やSDGs未来都市に選定されている。環境を不変のまま保全していくのではなく、環境と住民、時に外部の人や資本が互いに関与しながら柔軟につながり続けていくこと、そこにこそ持続可能性の本質があることを学ばせてもらった。

 この町には「誰かと共感しあうという、人類共通の経験や感情」が少し多めにあるようだ。光のアートが生む共感の環が壮大なスケールで広がっていく光景に、人と環境との共感の連鎖を重ね見る思いがした。新しいラグジュアリーのイメージがここに重なる。