フィンランドは幸福度において5年連続世界一の国である。ジェンダーギャップもほとんどなく、現在の首相サンナ・マリン氏はじめ連立5政党の党首はすべて女性でそのうちの4人は40歳未満である。ワークライフバランスも達成され、ヘルスケアや教育の水準も高い。その幸福の源泉はいったいどこにあるのだろう? フィンランド大使館商務部の上席商務官として、ファッションとライフスタイルを担当するラウラ・コピロウ氏に「フィンランドのラグジュアリー」というテーマで話を聞いた。場所はフィンランドを代表するリビングウェアブランド「Iittala」(イッタラ)の表参道ショップ併設のカフェ。全3回でお届けする。
文=中野香織
フィンランド人は何をラグジュアリーとみなすのか?
——フィンランドの人は何をラグジュアリーとみなすのでしょう?
ラウラ 毎日の小さな幸せです。たとえばお水を飲むにしても、ペットボトルから飲むのではなく、きれいなグラスから飲む。タオルも肌ざわりのいいものを使う。ラグジュアリーは、毎日の生活体験の積み重ねから生じると考え、質の高い暮らしをします。一点、高価なものを買うために何かを我慢するという発想はないですね。太陽とシナモンロールがあって、友達がいれば幸せ。ゆとりがあって、シンプルです。
——そのような考え方はどこから生まれてきたのですか?
ラウラ 一つの理由は気候からです。夏はすごく美しい白夜の時期ですが、冬は太陽が出なくてとても暗いのです。おうち時間が長くなります。だから、おうち時間を幸せにするために家具やインテリアを美しくしてきたのです。太陽が出ているのはあたりまえではない、という自然と向き合ってきたからこそ、このようなラグジュアリー観が生まれてきたのだと思います。太陽が出ていれば幸せと感じます。太陽が出る時の贅沢感がすごいのです。
フィンランド人は自然光も好きです。ある人気インフルエンサーは光と影の写真ばかりSNSにアップしているんですよ。
——太陽が出ないと影も生まれませんからね。そんなラグジュアリー観、あるいは幸福感を表す言葉はあるのですか?
ラウラ 「Kaunis arki」(カウニス・アルキ)、でしょうか。直訳すると「美しい毎日」「美しき日常」という意味ですが、日用品や公共空間のデザインにこだわり、日々の暮らしや幸福が重視されています。非日常的な高いものを一時的にというよりも、根本的に質の高い暮らしをするほうがいいと考えます。しかも、100%は求めません。ほどほどがポイント。「いいよね、これで」という感覚です。
——その「ほどほど」の質が高いと感じますが、幼少時から質のよいものに囲まれている環境の影響も大きいでしょうか?
ラウラ そうですね、学校では、そもそもいい家具しか使いません。小さいときからこうなので、それ以外に考えられなくなるのです。こういう考え方は戦略というわけではなく、すっかり浸透しているのです。日本人の「もったいない」のように、昔からあった感覚です。
——チープなものに囲まれたことがない。それは最高の教育環境ですね。
ラウラ 安いものがそもそもあまりないのです。100均はない。安いものというとフリーマーケットぐらいです。最初は値段がはるかもしれませんが、ずっと使えますので、日割り計算をすればお得です。