映像作家として振り返るトニー・スコット監督
ここからはオリジナル『トップガン』を作り上げたトニー・スコット監督について振り返っていきましょう。
2012年に非業の死を遂げるまでに、『トップガン』以外にも数々のヒット作を手掛けながらも、兄リドリー・スコット監督に比べて語られることが少ない監督ですが、実は単なるヒット作の枠を超えた個性的な作品も多数あります。今回は「ヒット作」という言葉から離れ、個性的な必見作をご紹介して行きましょう。
●タランティーノの存在を世界に知らしめた『トゥルー・ロマンス』(1993)
監督・脚本+出演の『レザボア・ドックス』(1991)で映画ファンの間では「知る人ぞ知る」存在となったクゥェンティン・タランティーノが、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞する監督第2作の『パルプ・フィクション』(1994)の直前、彼の脚本をトニー・スコット監督がシャープでスピーディな演出で映像化し、その素晴らしい化学反応で「映像作家」トニー・スコットを認知させられる代表作の1本です。
初期のタランティーノ脚本の持ち味である過剰なバイオレンス味やマニアックなセリフの応酬などを、絶妙なバランスで演出したスコット監督の手腕が生み出した「無謀な青春」ジャンルの名作の1つといえる作品です。
●潜水艦サスペンス『クリムゾン・タイド』(1995)
デンゼル・ワシントンとジーン・ハックマン共演の潜水艦もの。当時の米露の対立を背景に、核戦争の危機に直面する原子力潜水艦を描いたポリティカル・サスペンスですが、限定された密閉空間をスタイリッシュに描くトニー・スコット監督の演出と、『トップガン』でもうかがえるメカニック描写との相性の良さが印象的な作品です。
●冒険小説の名作を映像化した『マイ・ボディガード』(2004)
1980~1990年代を代表する冒険小説作家のひとりA・J・クィネルの名作「燃える男」を映画化したサスペンス・アクション。『マイ・ボディガード』という柔らか目のタイトルとは一味違うハードな内容にビックリさせられる作品です。トニー・スコット監督とのコンビの多かったデンゼル・ワシントンが『クリムゾン・タイズ』以来2回目の主演を務めます。
●実在した女性バウンティハンターの半生を描いた異色作『ドミノ』(2005)
『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003)以降の活躍で人気女優となる直前のキーラ・ナイトレイを主演に、実在した女性バウンティハンター、ドミノ・ハーヴェイの半生を描く異色のアクション作品ですが、実は『トゥルー・ロマンス』と並ぶ「映像作家」トニー・スコットの代表作ともいえる作品です。冒頭で放たれた1発の銃弾から、ほぼ全編がそこに至るまでの回想という凝った構成で、ヒロインがなぜ恵まれた環境(父親は世界的な名優のローレンス・ハーヴェィ。ドミノ自身もトップクラスのモデル。)から、危険な道を選んだのかが描かれます。
ここでもスコット監督のスタイリッシュでスピード感あふれる演出は健在で、ヒロインのカッコよさが十分に引き出されています。
●遺作にしてベスト作の1本『アンストッパブル』(2010)
無人のまま暴走を始めた爆発物満載の列車。徐々にスピードを上げて暴走する、その列車の脱線を回避するため、決死の闘いを挑むベテラン機関士(デンゼル・ワシントン)と新米車掌(クリス・パイン)の活躍を描く列車サスペンス。
実話を基にした作品ですが、本作の魅力は何といっても列車を巡る描写で、列車そのものに加えて、操車場の日常的なシーンやセリフの端々に込められた「鉄道愛」的なものが伝わってくる点にあります。『トップガン』と同様にメカの魅力を引き出すというトニー・スコット監督の持ち味が十分に発揮されています。
そして主演はこれで3回目のコンビとなるデンゼル・ワシントン。ベテランの機関士をいい味で演じています。
残念ながらこれが最後作品となってしまいましたが、スピード感あふれる演出とメカ描写、そして相性の良い俳優との組み合わせという、すべての要素が良い方向で結合したベスト作品の一つとして、ぜひご覧いただきたい快作です。
以上、どれもパッケージや配信などで手軽に鑑賞できる作品です。すでにご覧になっている作品も多いかと思いますが、この機会に視点を変えて見直してみてはいかがでしょうか。