プライバシー規制強化の動きがグローバルで広がっている。今後、消費者データの取得が難しくなり、多くの小売業が店舗DX戦略の見直しを迫られる。そんな中、注目を集めているのが店舗を中心としたオフラインデータの活用だ。IoTセンサーを用いてリアルな顧客行動を可視化し、店舗という場所に新たな付加価値を与えるソリューションを展開するTangerine株式会社の島田崇史氏に、オフラインデータ活用の最新事例を聞く。
※本コンテンツは、2022年3月25日に開催されたJBpress主催「第7回リテールDXフォーラム」のセッション7「オフラインデータ活用の最前線〜データレス時代の新しい戦術〜」の内容を採録したものです。
なぜ今、顧客行動を可視化するオフラインデータが注目されているのか
今、小売店舗において、センサーデバイスなどを用いてリアルタイムに顧客の動きを可視化したオフラインデータが注目を集めている。「その背景には、世界的に広がるプライバシー規制強化の動きがあります」と解説するのは、小売店舗のDXを支援するTangerine(タンジェリン)株式会社取締役COOの島田崇史氏だ。
「過去には、企業が消費者のオンラインデータをかなり自由に利活用していた時代がありました。しかし現在はプライバシーの規制が進み、データを利用するには消費者サイドに許諾を得なければなりません。今後は『データは顧客のもの』という認識に立ち、顧客に価値あるサービス・体験を提供し、見返りにデータをもらうといった仕組みをつくる必要があります。そのために多くの企業が、顧客の来店のタイミングを絶好の機会と捉え、最大限に活用するための新たな方法を模索しています」(島田氏)
こうした流れを受けてタンジェリンでは、OMO(Online Merges with Offline)設計やMA(Marketing Automation)ツールなどと接続可能なオフラインデータプラットフォーム「Store360(ストア360)」を立ち上げた。顧客の来店時にフォーカスし、UX(顧客体験)を向上させるとともに、オフラインデータの取得から分析、活用までをフルにサポートするのが目的だ。
このプラットフォームに含まれる「Store360 UX(ストア360 UX)」は、来店施策であるインストアメニューを、簡単に既存アプリケーションに導入できるプラットフォームサービスだ。もう一つの「Store360 Insight(ストア360 インサイト)」は、オフラインデータをもとに小売業界に特化したデータ分析を支援する。例えば店舗の前を通る人のうち、店に入ってくる客数をカウントして入店率を可視化するといったことが可能だ。
「多くの企業がデータ利用の許諾を得やすいアプリケーションサービスを展開していますが、ユーザーに不要だと判断されたものはすぐに消去されてしまいます。継続的に使ってもらえるよう、アプリケーションの価値を高める取り組みが必要です。そのために来店中しかできないサービスを盛り込むのは、非常に有効だと考えています」(島田氏)
「来店中」のアプリケーション利用を促すStore360 UXのインストアメニュー
「今までのアプリケーション利用のタイミングは、店舗検索や予約などをする『来店前』と、会員証やクーポンを提示する『購入時』に限られていました。肝心の来店中はアプリケーションを利用することがないため、そこが長らくカスタマージャーニーの空白部分になっていたのです」と島田氏は指摘する。
そこでストア360 UXでは、来店のタイミングでアプリケーションの起動を促す「来店スタンプ」をインストアメニューのトップに位置付けている。具体的には、顧客が来店するたびに自動的にスタンプを押して、10個貯まると500ポイントを進呈するといった仕組みだ。経済的なインセンティブでアプリケーション利用そのものを促進する効果もあり、大手アパレルメーカーをはじめ、これまで多くの企業に採用されている。
さらに、ビーコンが得意とするプッシュ配信を使って、クーポンやメッセージをリアルタイム配信することも可能だ。顧客が来店中に気になった商品のバーコードをスキャンして登録しておき、後日ECサイトで購入したり、値引きの通知を受けたりといった、顧客にオンラインとオフラインを行き来させるOMO機能も用意されている。
島田氏は、「ストア360 UXの特徴は、なんといっても導入が簡単なところです」と、そのシンプルな仕組みを解説する。たとえば上記のようなインストアメニューを追加する場合も、自社の公式アプリにビーコンSDK(ソフトウエア開発キット)を入れて、タンジェリンのクラウド上にコンテンツを登録すれば完了だ。
個人単位で把握・蓄積が可能なデータをStore360 UXの機能群が生かす
こうした店舗での顧客行動をデータ化して保持できることも、ストア360 UXの特徴の1つだ。
「タンジェリンでは『flxBeacon(フレックスビーコン)』という規格で、来店者のスマートフォンでBluetooth(ブルートゥース)がオンになってさえいれば把握できる機能を実現しています。さらにさまざまなバックエンドの仕組みを駆使して、顧客の店舗での行動をID単位で保持しています」(島田氏)
これによって個人単位の来店や購買の履歴、属性に応じて、クーポンやメッセージを配信することが可能になる。また、天気のデータがデフォルトで入っており、気温やUV指数などと組み合わせたプッシュ通知も可能だ。また来店時だけでなく、GPSに反応したプッシュ通知や、多くのユーザーに一斉送信するリモートプッシュにも対応している。
Store360 UXは、顧客だけでなく従業員の行動の把握も可能だ。「スタッフビーコン」という小型のビーコンをスタッフに持たせると、誰がどの顧客を接客したかというデータを取得できる。例えば、ある顧客が来店時には購入に至らなかったが、後日ECサイトで購入した場合に、これを店舗の販売員の実績に加味するといったことが可能になる。さらに来店履歴をベースとして、スタッフと顧客のコミュニケーションが促進されるといった効果も期待できる。
そうした機能群の中でも、このところ利用の要望が急増しているのが「来店後のアンケートフォームの通知」だという。
「これまでアンケートは購入者をベースに通知するのが基本でしたが、ストア360 UXでは来店者をキーにしたアンケート通知が可能です。来店の数時間後、数日後といった設定もできるため、最適なタイミングで通知し、聴取率(回収率)を上げることが可能です」(島田氏)
来店時のオフラインデータをAIで自動分析するStore360 インサイト
Store360 インサイトは、来店時の施策で得たオフラインデータの分析を支援する。これは、データ分析のユニコーン企業であるThoughtSpot(ソートスポット)のプラットフォーム「ThoughtSpot Everywhere」をベースにしたサービスだ。Googleのようなキーワード検索に「売上」「商品カテゴリー」といったワードを入れて実行するだけで、簡単にデータが表示される。
「当社が保持しているオフラインデータと、企業側で持っているPOSデータや会員データを連携させて統合し、分析・可視化します。分析はAIが自働的に行い、EメールやPDFなどで簡単に共有できるため、店長や従業員の方々に幅広くデータを活用していただけます」(島田氏)
また大きな特徴として、ユーザーライセンス課金ではない点が挙げられる。「データ容量課金のため、より多くのユーザーに安価にサービスをご利用いただけます」と島田氏は語る。
データの自動分析は、AI機能である「SpotIQ(スポットIQ)」が行う。例えば、2月から3月で売り上げが30%増加していた場合、この部分をグラフ上で選択してスポットIQを実行すると、市区町村別、性別、年代別といったデータを瞬時に分析して結果を表示できる。その結果が業務に役に立ったか否かのフィードバックをもとに、分析最適化の学習を行う機能も備えている。
検索結果を1つのダッシュボードにまとめておくことも可能だ。定期的に見るべきデータはダッシュボード化して、気になる点はスポットIQで自動分析するという使い方ができる。自動分析は、1000万件程度のレコードであれば、10秒から20秒で結果が返ってくるという。
「以前は不可能だったリアル店舗での顧客行動を把握し、そのデータ分析結果をすべての従業員の方が共有し、活用する。そのような新たなデータ体験を、当社のオフラインデータプラットフォームによってご提供していきます」と島田氏は抱負を語る。
これまで空白だった来店中のアプリケーション利用に焦点を当て、よりよいカスタマージャーニーを成立させながら、確実にオフライン・オンラインのデータを取得し、活用する。こうした好循環を生む仕組みこそが、店舗DXを実現していく。
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