「楽しむ」ことを大切に
1つは、「楽しむ」という姿勢だ。
北京オリンピックで日本のペアの将来を思い、団体戦の責任も背負い過ごす日々は、消耗を強いた。大会が終わり、世界選手権へと簡単に目を向けることはできなかった。
「疲れが抜けるのに時間がかかり、気持ちを作りなおすのに苦労しました」(木原)
そこから脱することができたのは「シンプルに楽しもう」という思いだったと木原は言う。
それは世界選手権に限らず、試合のたびに大切にしてきたことだったが、2人のこれまでを考えれば、より重みも感じさせる。
木原は前のパートナーと出場した平昌オリンピックの翌シーズン後、ペアを解消。自身の限界を感じ、一度は引退を考える状態にあった。
そのとき、出会ったのが三浦であり、相性のよさを直感し、競技への意欲を取り戻した。その出会いは三浦からのオファーによるものだったが、三浦も前のパートナーと解消し、次のパートナーを探す中で考えたのが木原だった。
今思えば出会うべくして出会ったからこそ、お互いを尊重してきたし、成長することができた。また、苦しい時期から抜け出すことができたのもお互いの存在だ。だからこそ、ともに競技へと向かう姿勢として「楽しむ」ことを大切にしてきたのではなかったか。
「過去の自分に勝つこと」とは
木原と三浦が大切にしてきたことに、「過去の自分に勝つこと」もある。
「どの試合でも僕たちが大切にしてきたのは、毎試合毎試合、ベストを尽くすこと、『過去の自分たちに勝つこと』をテーマにしていたので」
世界選手権で木原は語った。大会に北京オリンピックの上位ペアが欠場したことについて尋ねられての答えだが、「過去の自分たちに勝つ」ことを重視しているについては、他の大会でも触れてきた。
テーマとして掲げるのは簡単でも実行するのは容易ではない。それは大会に出場するたびに成長していくことを意味する。そのためには、日々、怠ることなく、真摯に努力を続けなければならないからだ。ときにモチベーションが下がることも、疲労する時期もあるだろう。それでもゆるまず進んできた。それがもう1つの原動力であり、その成果が、結成から2年ほどという短い時間で臨んだ今シーズンで見せた、飛躍的にレベルアップした演技と、その結果としての成績にほかならない。
ただ、2人に満足はない。世界選手権ではミスが出たこともあって、自己ベストには及ばなかった。
三浦は言った。
「納得のいく演技ができなくて、悔しいです」
それもまた、次へのモチベーションとなる。
「来シーズンへ向けて、いい流れを作っていきたいと思います」(三浦)
「またコーチから新しい技を学び、見たことのない技も作っていきたいと思います」(木原)
成長を志してきた2人だからこそ、さらに成長していきたいと思う。
4月2日、三浦と木原が出演するアイスショー「スターズ・オン・アイス」が開幕した。2人にとって、昨年11月のNHK杯以来となる国内のリンクだ。
「私たちらしい、スケートの楽しさというのを伝えられるように」(三浦)
「皆さまの前で演技を披露させていただけることを心からうれしく思っていますし、2人の持ち味である楽しそうに滑っているところを、お届けできれば」(木原)
披露したショートプログラム『ハレルヤ』には、2人ならではの楽しい空気があった。
演技を終えた2人を、観客はスタンディングオベーションで称えた。
この1年のたしかな成長をも披露した2人の笑顔は、2人の、未来を信じる力を示しているようでもあった。