大山祇神社 拝殿

 回廊に囲まれた拝殿と本殿は室町時代に建てられたもので、重要文化財に指定されている。その手前には17の神社が一体となった十七神社がある。直接拝ませていいただくことはできないが、こちらには21体の木造の神像が祀られており、うち17体は平安初期の作だという。

 これらの端正な建物や神木の楠が点在する境内には、えも言われぬ静謐な空気が満ちており、歩いているだけで心が澄みわたって来る。

 お参りを終えたら、境外にも、ぜひ立ち寄ってほしい場所がある。境内最奥の門から出て徒歩数分のところにある「生樹の御門」だ。樹齢約3000年と言われる根回り約30mの巨大な楠で、幹の根元に開いた自然の空洞を門に見立て、それをくぐって奥の院へ参拝していたことから「生樹の御門」と呼ばれるようになった。

生樹の御門

 手前に石段があり、現在もくぐって奥の院にお参りすることが可能。こちらは、大山祇神社の中でも最大のパワースポットと言われ、ここをくぐることによって生命の輝きがよみがえるとされる。ちなみに、この奥にあるのは、奥社ではなく奥の院。したがって神社ではなく寺で、阿弥陀如来が祀られている。

 

一度はみたい貴重な国宝と「ひとり相撲」

 日本総鎮守のこの神社は、古代の豪族や瀬戸内水軍、歴史上の著名な武将などの崇敬を広く集めたため、数々の宝物が奉納された。境内の左手にある大山祇神社宝物館には、それらの宝物が展示されている。特筆すべきは、114面もある鏡だ。これらは古代の女帝やこちらを氏神とした河野一族の女性たちが奉納したものと言われ、とりわけ、斉明天皇が奉納したとされる国宝「禽獣葡萄鏡」が貴重である。

 武将たちが奉納した武具の数々も見逃せない。美しい刀剣や甲冑の中には源義経や源頼朝が奉納したと伝わるものもあり、国宝指定も多い。戦国の世に三島水軍を率いて戦ったという伝説のヒロイン、鶴姫ゆかりとされる鎧も興味深い。現存する唯一の女性用の鎧と言われ、他の鎧よりかなり小さいが、胸まわりはゆったり、ウエストがぎゅっと引き締まり、いかにも若い女性の体形に合わせたものに見える。

 このような神社が鎮座する大三島では、古来より祭礼も盛んで、春、秋を中心に、さまざまな形の祭が伝承されている。よく知られているのは、旧暦5月5日の御田植祭と9月9日の抜穂祭に行われる「ひとり相撲」という珍しい神事だ。

 斎田の前に土俵が設置され、行司と力士ひとりが土俵に上がる。力士の対戦相手は目に見えない稲の精霊とされ、2勝1敗で精霊が勝ち越すのが決まりだ。これによって、豊作が約束されるのだという。こちらは日本総鎮守なのだから、ここで稲の精霊が勝てば、日本全体の豊作が約束されるということだ。いずれの日程も旅に適した時期と思われるので、ぜひ一度見学してみたい。