取材・文=髙岡麻彩 

日本酒の魅力のひとつが「燗酒」にすることで味や香りが変化すること。実は家庭でも簡単にできる美味しい「燗酒」の作り方を紹介した前回(温度で味わいも変わる、意外にしらない「燗酒」の美味しい作り方)に続き、今回は唎酒師 髙岡 麻彩が厳選した、冬に燗酒にして美味しい日本酒を8本を紹介する。

飲んで選んだお燗にぴったりな日本酒

①『真澄 ひやおろし』(長野県・宮坂醸造)

1980円(720ml)、アルコール度数15%

 私のお気に入り、細かい泡で包まれ、お祝いにふさわしい酒スパークリング「真澄 スパークリング Origarami」のある宮坂醸造。宮坂醸造は創業1662年。アルコール発酵と香りの素となる7号酵母発祥の酒蔵だ。機械と人の作業を分けて、蔵内を清潔に、そしてお米の品質を保つため、お米を運ぶエアシューターという機械も使わず、人の手で運ぶなどこだわっている。

 秋の季語でもあるひやおろし。一夏の熟成を経ることで、落ち着きのある味わいへと変化したこのお酒は、山廃造りならでは、複雑重厚な味わいを感じることができ、冬の味覚の旨みを引き立ててくれる。口に含むとコクと酸味が感じられ、言葉に形容するの難しい、複雑な旨味がゆっくりと口の中に広がりながら、豊潤な余韻が感じられる。燗酒にすると、更にまろやかさを感じることができ、余韻が心地よい。ぬる燗がお薦めだ。

 

②『夜の帝王 特別純米』(広島県・藤井酒造)

1320円(720ml)、アルコール度数15度

 お燗といえばこの酒ではないだろうか。広島県のお酒の特徴は「お米の味わいを引き出した美味しいお酒」と言える。藤井酒造では、まさに辛口ながら、お米の旨みを引き出した食中酒のお酒を造っている。2019年からチャレンジしている「100年前の木桶復活仕込み」を中心に、それに関連する「生酛造り」「古い種麹による製麹」など、自然との対話の酒づくりを目指している。

 そんな素晴らしい酒蔵で造られる『夜の帝王』。このインパクトのあるネーミングは、夜の帝王が明け方まで「じっくり飲めるお酒」をイメージしてのことだそう。広島県の酒造好適米である八反錦をメインに使用し、軟水仕込みの特徴を活かしたこちらのお酒は、58度くらいから、だんだんぬるくなって行く変化を楽しむのがお薦めだ。香りが優しく、口あたりまろやかで、程よい酸味と心地よいキレ。一度のむと、次また飲みたくなる。どんなお料理にも合わせられる『夜の帝王』をぜひ体験してみてほしい。

 

③『龍力 特別純米 生酛仕込み』(兵庫県・本田商店)

1650円(720ml)、アルコール度数16度

「山田錦を語るなら土を語れ」と言われるように兵庫県は山田錦の聖地でもあるが、良い米「特A地区産の山田錦」の秘訣は土にあると言われている。酒蔵を訪れると、併設の龍力テロワール館があり、壁には様々なエリアの地層の断面図が飾られている。「テロワールとは土だ!」と日本酒、ひいては酒蔵にとっての土壌の大切さを表現している酒蔵だ。昨年100周年を迎えた本田商店では、創業当時から一貫した信念「米の酒は米の味」良い酒は良い米からを貫いている。

 蔵で使用する山田錦は【兵庫県特A地区産】。そして、高級ワインのように、日本酒にも熟成という文化を広めるべく、活動している。龍力の主力商品「米のささやき」を筆頭に、全米日本酒鑑評会では金賞を受賞、IWCでは古酒の部門で金賞を受賞している。

 昨年、社長に就任した、5代目蔵元本田 龍祐さんに実際に酒蔵を案内いただいたときには、お酒造りにおける細部に至るこだわり、品質を保つための日本酒に対する熱いパッションをひしひしと感じた。

 最近発売した「蔵出新酒」は、良質米で低温発酵させたブランド酒「龍力」の新酒で、酒米はコウノトリも生息できる豊岡市内の田んぼで減農薬栽培し、仕上げに使うアルコールも自社製造する廃棄物ゼロの持続可能な製法で造ったという。

 活用した酒造好適米「五百萬石」の新米は、高温障害がなく、過去5年で最も良い出来だという。この様にこだわり抜いた酒蔵がお燗酒にピッタリな日本酒を造った。それは『龍力 特別純米 生酛仕込み』。最近では燗酒コンテストで金賞を受賞した。

 江戸時代から伝わる伝統的な造りである「生酛仕込み」。時間をかけて自然に乳酸菌を培養する酒造法で、技術の伝承を目的に仕込む。現代の最高の酒造好適米「山田錦」と、伝統の技術「生酛仕込み」の融合が叶った酒だ。お燗でいただくならば、55度くらいから徐々に温度を下げていただくのがおすすめ。私は何よりも、本田社長の熱い想いがぎゅっと詰まったこの日本酒を愛せずにはいられない。

 

④ 『桂月YUZUSAKE』(高知県・土佐酒造)

1415円(720ml)、アルコール度数8度

 桂月の由来は面白い。月の名所として名高い桂浜の月と言われ、「よさこい節」にも唄われている。120年以上の歴史を持つこちらの酒蔵は、フランスパリの日本酒コンクールでも表彰されるほど、素晴らしいお酒を造っている。今回ご紹介するのは、『桂月 YUZUSAKE』。そのまま飲んでも美味しいのだが、初めてお燗でいただいた時に驚いてしまった。

 これはまたたまらなく美味しい! コタツに入ってぬくぬくしながら飲むには最高な酒だ。最適温度は58度。是非試して欲しい。