⑤『剣菱』(兵庫県・剣菱酒造)

1125円(900ml)、アルコール度数16.5度

 500年の歴史を持つ剣菱酒造は、あの『東海道五十三次』にも描かれている。「止まった時計でいること」の覚悟と信念を貫き、創業から今に至る約500年間、歴史を大切にした変わらない造りによる「変わらない味」を届けている。使う道具も昔ながらを大切にしており、例えば、剣菱の日本酒を造る上で必要な杉製の暖気樽は、手作りで作られている。

 伝統工芸職人の高齢化と後継者不足が叫ばれている中、剣菱では「変わらぬ味」を守っているのだ。日本酒は日本の文化、それを体現している酒蔵だ。しぼりたては一切作らず、2,3年熟成させた日本酒をブレンドする。契約農家の兵庫県産特A地区の山田錦だけを使用し、お酒造りが始まる冬には約80人ほどの蔵人がこの剣菱酒造に集まるという。

 剣菱はやっぱり燗酒だ。みりんのようにこっくりした香り。一口含むと、重厚感がありつつも、キレの良さに体中に染み渡るような感覚に陥る。剣菱ファンは多い。近くのコンビニエンスストアにも必ずあるくらいだ。

 

⑥『初陣 純米吟醸』(島根県・古橋酒造)

2000円(720ml)、アルコール度数16度

 山陰の小京都・津和野に位置する古橋酒造。津和野は毎年100万人が訪れる観光地だ。古き良き日本にタイムスリップしたかのような町並みがいたるところに残っており、古橋酒造は、ちょうど四角(四つ角に存在することから?)に存在する、「角酒場」の愛称で地元の人から愛されている。国登録有形文化財にも指定されており、代表杜氏でもある古橋貴正さんのひたむきなお酒造りへの姿勢には、ただただ感無量だ。

『初陣』という名前は、初代蔵元が17歳の時、広島藩士お馬廻りとして鳥羽伏見の戦いで「初陣」を飾ったところから由来しているという。

 津和野産酒米『佐香錦』100%使用のこちらの酒は、スズランのような柔らかいお花の香りに、お米の旨みと酸味が心地よい。余韻が少なく、スーっと喉を通って行く。お正月やお祝いにぴったりの酒だ。

 

⑦『千徳 金雫』(宮崎県・千徳酒造)

1150円(720ml)、アルコール度数15度

 宮崎県延岡市の誇る酒蔵、千徳酒造。明治36年から、醤油・酒の製造をスタートしたこちらの酒蔵は、日本の最南端にある酒蔵として有名だ。九州は焼酎のイメージがあるが、日本酒の酒蔵も存在する。

 杜氏の門田 賢士さんを筆頭に、少人数でお酒を仕込み、ひとつひとつの作業を丁寧に、お酒を醸す。全国新酒鑑評会でも金賞を受賞するなど、こだわりのお酒造りをしている。実際に酒蔵へもお邪魔させていただき、全種類の日本酒をふるまっていただいたのだが、飲み進めるごとに、違った表情を見せるお酒たちに驚き、こんなに美味い酒があるのだと感動した。

 今回ご紹介するのはその中のひとつ。ナッツのような芳醇で香ばしい香りに、お米のふくよかさと酸味が一度に舌の上で合わさり、すっと溶けて行く感覚。余韻は少なめでスルスルいただけてしまう。お燗にしたこちらのお酒とチョコレートを合わせると、口の中でとろける。日本酒だけでもたまらなく美味しいが、ぜひこの幸せな舌鼓も体験してみて欲しい。

 

⑧『NOMANNE』(佐賀県・古伊万里酒造) 

1760円(180ml)、アルコール度数15度

 江戸時代より明治にかけて焼き物の積出港として栄えた伊万里。
荷に書かれた伊万里の印より、その焼き物は「古伊万里」と呼ばれ、現在に至るまで世界中で愛されている。古伊万里酒造は、江戸時代に伊万里の港で呉服店を営んでいたが、明治42年に酒蔵に転身。

 歴史と伝統を守りつつ、最近では、IWCや全米日本酒鑑評会などで、賞を受賞するなど、注目されている酒蔵だ。歴史とロマン溢れる、佐賀県伊万里焼きの聖地に存在する酒蔵。昔ながらの寒造りや佐賀県産のお米を活用するなど、伝統と歴史を守りつつ、時代にマッチした日本酒造りを進めている。

 NOMANNEは見てのとおり、可愛い有田焼カップに入ったカップ酒だ。「酒と恋には酔ってしかるべき」という少女漫画でも取り上げられ、SNSで大ブーム。この漫画の読者でもある私は、この日本酒が欲しくて、欲しくてたまらなかった。機会があって、実際にこちらの酒蔵までお伺いし、手に取り、お話を聞けたときの幸せと言ったら……こちらのカップ酒は、佐賀県米を活用した純米酒だ。そのままいただいても良し、お燗にすると酸味がより感じられ、みりんや醤油で香りづけしたタラの煮付けと合わせるのがお薦め。

 飲み終わったら、カップがペン立てや小物入れに早変わり!女心をくすぐるこちらのカップ酒は、コレクターも多いはず。

 

 お燗で美味しい日本酒、発見はあっただろうか。

 日本酒にはお燗推奨のお酒が存在する。温度によって、酒蔵によって、そして酒質によって、様々な表情があるから日本酒は面白い。

 この冬ぜひ、温泉に入るようにほっとする日本酒を試してみて欲しい。