平野歩夢、小平奈緒にも注目

 モーグル以外の競技にも目を向ける。

 上村は3人の名前をあげる。1人目はスノーボード・ハーフパイプの平野歩夢だ。ソチ、平昌大会の銀メダリストであり、昨夏はスケートボードで東京オリンピックに出場、異なる夏冬の競技での挑戦は注目を集めた。

「平野歩夢選手は、東京オリンピックでスケートボードにチャレンジして出場しました。そこから北京オリンピックまで半年間という短時間しかないのにワールドカップで2勝し、今までにない大技の『トリプルコーク1440』も成功させました。オリンピックへ向けて準備するのに3年、4年こつこつ小さいことを修正していた身からすると進化のスピードが速すぎて」

 自分を貫く強さも感じる。

「本当の本当のところで頭もいい選手だし丁寧な人だから、まわりのことも考えているところは絶対にあると思います。ただ、発信していること、言葉からは、伝えようとしているもの、追い求めているものを進化しながら表現したいという意志を表に出していますよね」

平野歩夢、再び夢舞台へ「誰もやったことがないチャレンジを」

 スピードスケートの小平奈緒も注目している1人だ。

「小平選手は地元が同じ長野ですが、ストイックさが言葉の端々に出てきますし、とてもきちんとしている方だな、と尊敬しています。誠実に向き合って努力を重ねている小平選手が、どんなタイム、パフォーマンスを見せてくれるのか、どのような言葉が出てくるんだろうと楽しみです」

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髙梨沙羅への思い

2021年12月30日、 スキージャンプ女子W杯リュブノ大会での髙梨沙羅 写真=アフロ

 続けて名前をあげたのは、ジャンプの髙梨沙羅。

「髙梨選手が初めてオリンピックに出た措置のとき、会話をする機会がありました。まだ試合をする前のときです。選手村に日本選手団が滞在する一棟があって、そこで一緒になりました」

『こんにちは』と挨拶を交わしたあと、髙梨に質問を受けた。

「オリンピックってどんな場所ですか?」

「その頃から世界1位の強い選手で、でも質問が純粋で」

 上村は答えた。

「4年に1回しかないし、緊張もするけれど、自分が練習してきたこと、積み重ねてきたこと、大丈夫と思えるものがあれば全然楽しいところだよ」

 返した言葉を、「あれでよかったのかな」と考えるという。

「そのとき、髙梨選手はメダルが獲れなくて、涙まじりのインタビューを観ると、あのとき、あの言葉でよかったのかなといつも考えます」

 そのやりとりもあって、髙梨をずっと見てきたという。

「強くなっているなあと思うし、この何年間か技術を作り直しているのを観たり聞いたりしています。、外から見ている人は、成績が上がったり下がったりだけで『あの選手の方が強いのかな』とか『よくないままなんじゃないか』とか、いろいろ言います。でも本人が『ずっと勝ち続けられるような選手でいたいと練習していた』と話しているのを聞いて、彼女も芯が強くて理想としているジャンプ、選手像も持っているんだなとあらためて思いました。かっこいいなと思って楽しみにしています」

 そしてこう続けた。

「体験したこと、想像したことのない世界がたくさんあって、その競技の中で争っている人たちの技術をみるのがオリンピックだと思います。どの競技も、初めて観る競技も、わくわくします。こんなに頑張っている人がたくさんいるんだなと思うのが楽しいですね」

 口調は終始穏やかで柔らかかった。口調だけでなく、その中身にも、選手たちへのあたたかさがあった。

 そこにはオリンピックに5度出場した競技生活で得た思いが根底にあった。(続く)

 

上村愛子(うえむら・あいこ) フリースタイルスキー・モーグルの選手として冬季オリンピックに5大会連続で出場しすべての大会で入賞。世界選手権優勝、ワールドカップ年間総合優勝を達成。2014年4月に現役引退。次代を担う選手の育成や普及に努めるほか多方面で活躍。平昌オリンピックではキャスターとしてさまざまな競技を現場から伝え、高い評価を得た。北京オリンピックでも東京から、キャスターを務める。