JBpress autographの編集陣がそれぞれの得意分野でお薦めを紹介する連載「RECOMMENDED」。第13回はエルメスの「セルヴィエット 57」を紹介します。
文=大住憲生 写真=唐澤光也(RED POINT)スタイリング=櫻井賢之(初出:2021年2月9日)
ビジネスマンに必要な書類バッグ
人間とバッグとのかかわりは、幼稚園への通園に使う黄色いショルダーバッグからはじまります。小学校ではランドセル、中高生になれば学校指定の通学カバンになるのでしょうが、ちかごろではバックパックやトートバッグにスポーツバッグもありでしょうし、なかには1970年代に流行したブックバンドという生徒もあるかもしれません。
そして大学生は自由裁量ということでしょうか。で、ビジネスパーソンともなれば書類バッグが必需です。ことほどさようにバッグは人間としての成長と、その社会とともにあるわけです。
その昔、わが国の弁護士は書類をバッグではなく風呂敷に包んでいたという話は有名です。いまでも検察官は風呂敷包みを手にして、検察庁と裁判所を往来しているそうですから、日本の法曹界にとって風呂敷はシンボリックなアイテム。なにより包んで運ぶという機能だけなら一枚の布で不足はありませんから。
フランスでは、弁護士が使う書類バッグをセルヴィエット(serviette)というそうです。タオルやテーブルナプキンもセルヴィエットですから、この書類バッグ、風呂敷のようなものなのでしょうか?
セルヴィエットとは書類バッグ
ラルース小辞典には、「書類やファイル、本などの持ち運びに使用される、長方形のコンパートメント付きのバッグ」とありますから、セルヴィエットは弁護士だけの書類バッグということではありません。
エルジェによるバンド・デシネの名作『タンタンの冒険』シリーズの第17作「オトカル王の杖」は、主人公のタンタンが公園のベンチに置き忘れられていたセルヴィエットを、持ち主である印章学の教授へ届けることからはじまる冒険旅行の物語。日本語訳ではカバンとそっけない。エルジェが描いているセルヴィエットもシンプルで、そっけないものです。
ポートフォリオ(portfolio)ブリーフケース(briefcase)アタッシェケース(attaché case)も、セルヴィエットとおなじく書類バッグのこと。ビジネスパーソンにとって重要な書類を入れ運ぶわけですから、とうぜん書類バッグも重要です。持ち物で値踏みされることは時代が変わっても変わらないでしょうから、ことさらに、書類バッグえらびを徒や疎かにはできません。
あの「ケリー」の名で知られるハンドバッグをデザインしたエルメス家4代のロベール・デュマ社長により、1957年に製作された書類バッグは、軽快に移動する男性のためのコンパクトなスタイル。
で、それをもとに2015年、iPadなどのタブレットを収納できるポケットをつけくわえ、ワークスタイルやライフスタイルの変化を見据えた復刻版が「セルヴィエット 57」です。書類バッグの現在形であり、定番でありつづける逸品といってよいでしょう。なによりエルメスですから上等。真っ当なビジネスパーソンにおすすめします。