藤井が注文したお菓子は完売

 2017年に八冠目のタイトル戦になった叡王戦は、IT関連企業の「ドワンゴ」が前期まで主催していた。今期からは、主に洋菓子を製造販売している食品メーカーの「不二家」に引き継がれた。

 将棋の対局では、棋士がエネルギー補給のために、チョコレートなどのお菓子を口に入れることはよくある。不二家は、「お菓子で棋士を応援したい」との観点から、プロ棋戦の主催を決めたという。

 藤井は叡王戦第5局で、柴犬の顔を絵柄にしたカップケーキ「コロコロしばちゃん」を、おやつに注文した。それがSNSで話題になると、不二家の販売店に多くの客が来て完売したという。

 ちなみに、明治時代後期に横浜で小さな洋菓子店を開いた不二家の創業者は、偶然にも藤井と同姓の藤井林右衛門だった。

 

10月から始まる竜王戦でまた豊島竜王と対戦

 メディアが藤井の三冠を大きく取り上げた背景には、タイトル数をさらに増やしていくことへの期待があった。

 藤井三冠は、10月から始まる竜王戦7番勝負の挑戦者にすでに決まっていて、豊島竜王とまた対戦する。

 藤井は今年6月まで、公式戦の対局で豊島に1勝7敗と大きく負け越していた。豊島は「天敵」のような存在だった。その後、藤井は豊島の挑戦を受けた王位戦7番勝負で4勝1敗と下し、豊島に挑戦した叡王戦で3勝2敗で破った。

 両者の対戦成績は、現時点で藤井の8勝9敗だが、7月以降は7勝2敗と勝ち越している。藤井がこの勢いを駆って竜王戦でも豊島を破り、年内に「四冠」を取得する可能性は大いにあると思う。

 

藤井の驚異的な飛躍の理由

 藤井は今年1月に高校を自主退学した。その後、対局以外の日は、自宅で将棋中心の規則正しい生活を送っている。

 AI(人工知能)を搭載した将棋ソフトを用いて研究していて、さらに「ディープラーニング(深層学習)」系の高性能のソフトも導入した。課題という序盤の精度を高めている。

 藤井の驚異的な飛躍は、「将棋中心の生活」と「高性能の将棋ソフト」が要因になっているようだ。

 そんな藤井は最近のあるインタビューで、「苦手なものがある」と語った。

 高校時代と違って運動不足になりがちなので、自宅の近くを散歩してみたら、同じコースを歩いて同じ景色を見るのが退屈で、「三日坊主」になったという。

 藤井は「下調べが必要です」と笑いながら語ったが、別にハイキングに行くわけでもない。たぶん散歩の先々で「藤井さん、がんばって」と声をかけられ、のんびりできなかったからだろう。