組織横断でDXを推進する豊田通商の事例から学ぶデジタル変革の取り組み

JBpress/2021.1.6

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 2020年11月12日に「豊田通商の事例から学ぶ、組織を横断したデジタル変革の取り組み」をテーマにオンラインセミナーが開催された。組織横断でDXを推進する豊田通商のデジタル変革推進部 DX戦略グループ グループリーダー 兼 ネクストモビリティ推進部 ビジネスイノベーションG Toyotsu Inno-Ventures Project推進チーム 須原浩一氏に、AIで世界中のニュースからトレンドと変化の兆しを検知するサービスを提供するストックマーク社長室 室長 森住祐介氏が話を聞いた。豊田通商の取り組みは組織の壁を超えてDXを推進する上でのヒントになるはずだ。

2018年から全社を挙げてDXへの取り組みを開始

 トヨタグループの総合商社として、金属、ロジスティクス、自動車、機械、エネルギー、化学品、食品など幅広い事業領域でビジネスを展開する豊田通商が、本格的にデジタル・トランスフォーメーション(DX)への取り組みを開始したのは2018年からだ。“コンセプト期”と位置づけられ、“デジタル”をキーワードに各分野でデジタル活用の可能性が議論された。

 「その次が2019年12月から始まった“企画検討期”です。デジタル化の取り組みを可視化したところ300件に上っていました」と須原氏は話す。この300件をベースにDXを推進するために設立されたのがデジタル変革推進室だ。2020年4月にはデジタル変革推進部に改組され、より一層の推進が図られることになった。

豊田通商のデジタル変革の歩み
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 デジタル変革の推進を強化してきた背景にはどんな課題があったのだろうか。須原氏は「企画検討期に調査分析したところ、危機感が薄いという現状が浮き彫りになりました。そのためにやらされ感が先行し、自分ごと化されていませんでした」と語る。

 RPAなど変革のためのツールが導入されたが、自分ごと化されていないために本来の目的が見失われ、ツールの活用自体が目的化されていた。同様に、各本部やビジネスユニットごとで取り組みが完結してしまい、大きなインパクトを生み出すことにはつながらなかった。

 「こうした状況を踏まえて生まれたデジタル変革推進部では、“なぜデジタル変革に取り組むのか”、“何にデジタル技術を活用したいのか”にこだわって活動しています」と須原氏は語る。

豊田通商株式会社
デジタル変革推進部 DX戦略グループ グループリーダー 兼
ネクストモビリティ推進部 ビジネスイノベーションG
Toyotsu Inno-Ventures Project推進チーム
須原 浩一氏

300のDX案件をベースに部門横断で活動に取り組む

 全社DX推進組織であるデジタル変革推進部は専任メンバー15名で構成されているが、各本部でDXを推進するチームを加えると120名を超えるメンバーがDXに取り組んでいる。「専任メンバーは本部ごとに声をかけて集めました。今勉強しながらDXに取り組んでいますが、いずれは各本部に戻してDXを広げる役割を担ってもらいます」と須原氏は語る。

 前述したようにデジタル変革推進部の活動のベースとなるのは、企画検討期に集めた300のDX案件だ。同社ではそれをステージごとに分類している。効率化、自動化を目的とした「DX1.0」、付加価値の創出を目指す「DX1.5」、そして新たなビジネス領域の挑戦である「DX2.0」だ。「DX1.0」が全体の約半分を占めるという。須原氏は「ステージによって打ち手が異なりますが、基本は各本部と一緒になって取り組みます」と話す。

豊田通商におけるデジタル変革とは
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 実際の活動で工夫しているのは、担当者自身の出身部門の案件をフォローするとともに、別の部門の担当者とペアを組んで臨むことだ。他部門だからこそ見えてくる気づきが良い結果をもたらすことが多いという。「効率的とは言えませんが、部門横断組織としてのメリットが生かせることがわかってきました。課題解決のための投資だと位置づけています」と須原氏。

 森住氏も「サイロ化されていたときには隠れていた問題や可能性が、横串にしたときに浮かび上がってくるということは良くあります。そこで重要になるのは顧客起点でトータルデザインを考えることで、目的を共通化することです」と指摘する。

“顧客起点”が組織の枠や発想の枠を超えて横断組織を一つにする

 他部門の視点を取り込んで顧客起点で考えることで、他の部門と一緒に取り組むことの必要性も見えてくる。例えば物流の最適化などが好例だろう。

 須原氏は「同じバリューチェーン上でも川上と川下でデータのやりとりができていなくて、分断されていることがよくあります。これをデジタルでつなげば大きなメリットをもたらすことができます」と指摘する。

 須原氏自身が取り組んできたネクストモビリティというプロジェクトでも同様のことが行われている。金属と樹脂などの世界をつないで新しいビジネス領域を切り開こうというものだ。そこではそれぞれに関連する部門がひとつのテーブルで議論を重ねているという。

 ただし、いざ進めようとすると障壁も高い。それぞれの業務の範囲が決められていて、システムがサイロ化されているからだ。このギャップを埋めるのは簡単ではない。だからこそチャンスがあるとも言える。

 「一人ひとりが自分の枠を超えて考えることから広がりが生まれるはずです。そこにチャンスが有るわけですからワクワクします」と須原氏は前向きに語る。こうした姿勢が好循環を生み出す秘訣なのだろう。

 森住氏は「デジタル化が進んだ世界ではサプライチェーン上のある事象の影響が、業界を超えてあっという間に広がってしまいます。その意味ではこれまでとは全く違った視点からバリューチェーンを見ていく必要があります」と今起きている変化を強調した。部門横断による幅広い視野を持つことでこうした変化を見出すことができる可能性も高い。

顧客の課題解決という目的のもとIT部門と共に事業部門の活動を支援

 具体的にどうプロジェクトを進めているのだろうか。「基本は各部門が自ら考えて実行していきます。それをデジタル変革推進部とIT戦略部がサポートしていくことになります」と須原氏。ITの専門家集団であるIT戦略部が受け持つのはテクノロジーの検証と実装の部分だ。

 デジタル変革推進部が、DX案件の目的や内容、対象顧客などビジネス構想の構築やレビューを支援する。それをソリューションとして実現するのをIT戦略部がサポートする形だ。両者は密に連携をとって案件ごとの支援に取り組む。

 「アジャイル開発の手法の一つであるスクラムのような感じで、プロセスを横断した一つのチームのような関係を目指していきたいと考えています」と須原氏。DXのプロセスで得意分野をそれぞれが受け持つ縦の部門横断の形と言えるだろう。

 部門を超えた発想の機会が思わぬ化学反応を生み出すこともある。その前提となるのが、目的の共有だ。須原氏は「自分の部門の事業拡大ではなく、業界やお客様が何に困っているのかという文脈で考えると、共通点が見えてきます」と話す。

 森住氏は「M&Aを繰り返している企業では、一人の顧客を各事業部で奪い合うという本末転倒な構図が発生しているところもあるそうです。本来はそうではなく、顧客の満足度を高めるにはどうしたら良いのかをOne Teamとして考えることによって一体感が醸成されます」と知見を述べた。

ストックマーク株式会社 社長室 室長
森住 祐介氏

社外との交流を通して危機感と焦りを覚えた

 同社が当初DXを自分ごと化できなかった原因が危機感の薄さだった。それは外部の情報や知識に対するアンテナが不十分なことに起因すると見られる。しかし、須原氏自身は以前から積極的に社外とのつながりを求め、自らのリテラシー向上を図ってきた。

 森住氏に「自発的に社外での活動を始めたきっかけはなんだったのでしょうか」と聞かれた須原氏は「様々な新しい事業にチェレンジしてきましたが、全てが上手くいったわけではありません。特にテクノロジーを正しく理解しているかは不安でした。そこで社外で新規事業に取り組む方たちがどんなリテラシーを持っているかを知ろうとしたのです」と答えた。

 須原氏が社外に出て目の当たりにしたのが、Slackを使いこなしてスピーディにコミュニケーションを図り、デザイン思考でビジネスを創造していく人たちの姿だった。「それを見て焦りや危機感を覚えました」と須原氏は話す。

 こうした危機感から「やらなければ」という意識が生まれ、社内有志による「着火部」という新たな学び、実践の活動につながり、2020年4月のデジタル変革推進部の発足にあたっては、DX戦略グループのグループリーダーに任命された。

 「DXは一部の人たちのものと捉えられがちですが、それでは活動は広がりませんし、大きなインパクトにもつながりません。興味を持ってもらって自分ごと化するには、情報に触れることが大切です。そのためにはAnewsのような仕組みが有効だと考えています」(須原氏)。

外部の情報をきっかけに同志の結びつきが生まれる

 ストックマークが提供するAnewsは、AIがチームに最適なニュース記事を届けるサービスである。須原氏は「まず期待しているのは、配信された記事によって社外の情報に興味を持ち、それが危機感を持つきっかけになること。次のフェーズは、やりたいことがあるときに、それに関する情報が集中して提供されること」だと話す。

 最も期待しているのは、その次だ。いろいろな部門がAnewsを利用することで、同じ興味関心を持つ人同士の部門を超えたつながりが生まれることだ。「Anewでは“イイね”が可視化されているので、興味を持っている人同士の出会いにつながることも。同じ危機感を共有してDXに取り掛かろうとしてくれれば私たちの出番も増えます」(須原氏)。

 森住氏は「“イイね”やコメントなどのシグナルに反応する者同士が結びつくことで、イノベーティブな組織になっていく可能性があります。Anewsのデータを上手く活用することも試していきたい」とAnewsの活用方法の新展開についての可能性を語る。

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のためにオフィスワークが減っていることで、オフィスでの雑談も減っている。こうした雑談から新しいビジネスが生まれたケースも多い。その意味ではビジネスチャンスのロスにつながっている。「Anewsが代わりのきっかけになって欲しい」と須原氏は期待する。

DXを後押しするのはチャレンジを応援する風土

 同社のデジタル変革推進部が発足してから実質約半年が過ぎた段階だ。成果を求めるには早過ぎる。須原氏は「ただ何が必要なのか、何が課題なのかはわかってきました。今後データを活用して価値を高めるビジネスに重点をおいて、具体的な成果として新しいサービスを作っていきます」と意気込みを語る。

 そのために必要なのは顧客起点など発想の転換だ。森住氏は「一人ひとりの行動変容が大事です。それによって自分の行動規範が変わり、企業カルチャーも変わっていきます。それを後押しするのがDX推進組織の役割です。これからの活動に期待しています」と語る。

 既存の業務に追われて、自分の仕事の範囲にこだわっていては、DXは前に進まない。その意味では経営者の後押しは必須だ。同社の貸谷伊知郎社長は2020年の社員向け念頭挨拶で「当事者意識を持って、役職員全員で取り組んでいきたい」とDXへの意欲を語っているだけに、安心して取り組めるはずだ。

 須原氏は「DXで重要なのはビジネスを変えることです。デジタルが必須ではありません。DXを掲げなくてもチャレンジを応援する風土を作って、もっと世の中の役に立つ会社にしていきたいですね」と語る。DXの今後の展開と成果が楽しみである。

お問い合わせ先

ストックマーク株式会社
Mail:marketing@stockmark.co.jp
Anewsサービスページ:https://stockmark.co.jp/product/anews/

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