マハラジャが愛したジュエリー
かつて空前の繁栄を極め、マハラジャたちが今も住まうこのジャイプールでは、古代からジュエリー産業が栄えていた。現在では貴石そのものはあまり産出されていないが、この土地には高度な加工技術が残っており、それを求めて世界中から宝石が集まってくる。大きな声では言いにくいが、ヨーロッパの有名メゾンブランドのジュエリーも、実はこちらで生産されていたりするのだとか。
その中でも最も有名な店のひとつが、「ジュエルス エンポリウム」。1841年に創業した名門で、店舗の地下には大きな工場を構えており、安価なシルバーからマハラジャ御用達のハイジュエリーまで、幅広い製品をそろえている。実はこちらは尊敬する作家の松山猛さんの旧知のお店で、その縁によって地下にある工房を快く見せてもらえたのだった。
ジュエリーに関しては知見が浅いために詳しくは触れられないが、その研磨やセッティング、金属加工はどれも昔ながらの手仕事であり、その細かやさには一見して圧倒された。
僕の訪問時には作業していなかったが、こちらが特に得意としているのは、アンティークのハイジュエリーによく使われている多色使いのエナメル加工。金属片に様々な色彩のガラスを焼き付けて、イスラムやヒンドゥーに伝わる古典的なアイコンを表現する技術である。このブランドの現オーナーであるアヌップ・ボーラさんは、現代のジュエリー界では途絶えつつあったこの技法を2000年頃に復活させ、今では300色ものエナメルをつくれるようになったという。
モードとクラフツマンシップの融合
〝ジュエルス エンポリウム〟を出てしばらく散歩していたところ、「PARAMPARA」というお洒落なショップを発見した。ブロックプリントを施した更紗のワンピースや、手刺繍をあしらったシャツなど、インドの伝統的な民芸品をモードにアップデートさせたこちらの商品は、ウィメンズが中心ながら、どれも素晴らしいセンスで、自分でも着たくなるようなものばかりだった。
実はこの店のオーナーはコロンビア人で、現地のアパレル企業で働いていたときに、この国の手仕事に魅せられて移住。職人を抱えてブランドを立ち上げたのだという。こちらが扱う商品はシャツで1〜2万円程度、刺繍を施した手織りのパシュミナなどは10万円以上する。もはや一流ブランドとそう変わらない価格だが、その価値を理解するインテリジェンスをもった、欧米人の女性客に大好評のようだ。そう、今やインドの手仕事はそれほどのポテンシャルを秘めているのだ。
さて、次回はいよいよこの旅における最大の目的ともいえる、話題の家具ブランド〝ファントムハンズ〟の工房を紹介したいと思う。