女性ドライバーにアピール
このブランドブックの最後は女性ドライバーへのアピールで締めくくられる。「かつては男性がプジョーの名の下に勝利を収めた。今日では前輪独立懸架のおかげで、新しい勝利者としてその名を刻むのは女性だ」という文章の下に、1932年と33年のモンテカルロ・ラリー、パリ=ヴィシー=サン・ラファエルラリーなど、女性が入賞した自動車レースのリストが挙げられている。
前輪独立懸架のおかげで女性が近年自動車レースでも活躍していると強調している見開きページ。右ページには険しい山道が描かれ、「悪路は前輪独立懸架によって打ち負かされた」という文字が見える。
次に続く見開きでは、「機械的な問題、美的な問題、経済的な問題が全て優雅に解決されたため、女性たちはプジョーを選ぶのです」という文章の右側に、最新型の301の中に立ち、微笑む女性の写真が配される。
この本では「前輪独立懸架」という技術的なアドバンテージ、それがもたらす悪路での安定性と運転のし易さを女性に結びつけ、新規顧客としての女性の取り込みを図っている。しかも、本稿冒頭のイラストに見られるように、モードやファッションとして、プジョーを運転するのは時代の先端をゆく女性であるというイメージを描いている。
1925年にアール・デコの画家、タマラ・ド・レンピッカが描き、ドイツのファッション雑誌「ダーメ」の表紙を飾った「緑色のブガッティに乗るタマラ」は有名だが、女性が自動車を運転する姿は当時、自立した女性のイメージと重なるところがあった。
この本はフランスの伝統やプジョー家の歴史に触れる一方、当時はまだ社会的に様々な制約があった女性を強く意識し、洗練されたファッションイラストの中に女性ユーザーへのメッセージを端的に表現している点が興味深い。
しかし、フランスで女性が配偶者や親の許可なしに預金通帳を作れるようになり、経済的に自立できるのは30年ほど後のことだ。