ひっそりと反省した井深氏

汐見:早期教育がブームになってくると、同時にその弊害も目立ち始めるようになりました。群馬大学医学部の臨床心理士の先生が私宛に手紙をくれました。内容は「人間になり損ねている子どもが通院し始めている。こんな症状は今まで見たことがない」というもの。

 子どもにもよりますが、異常に攻撃的あるいは自分の世界に閉じこもってしまう、というような症状がメインでした。これらの子どもは、情報処理に特化した過剰な早期教育を受けた子どもばかりだったのです。

 世間ではあまり知られていないのですが、井深氏は後に「幼児に対する知的教育は必要ないと分かった」と反省の弁を述べます。

 彼は1990年4月28日の朝日新聞「幼児開発協会20年の経験」の中で以下のように記しています。

「幼児開発協会を通して、早期教育に色々と取り組んできたが、“知的教育”よりも“心の教育”、つまり赤ちゃんの温かい心づくりが一番重要だと分かった。知的教育は言葉が分かるようになってから、ゆっくりで十分間に合う」

「温かい心」をどうすれば養えるのか。答えは単純で、子どもをウンとかわいがってやることで、感情を司る大脳辺縁系が発達し、その外側の大脳皮質とのつながりができてくるのです。結局、昔から人間がやってきたように、言葉を覚えるまでの子どもには愛情を与えることが最も重要だ、と分かったのです。

──汐見さんは、未就学児に対するあるべき教育の姿は、どのようなものだと考えていますか。