井深大が早期教育ブームの火付け役

汐見:実は、早期教育の最盛期は1970年代から90年代にかけてでした。火付け役となったのはソニー創業者の井深大氏。井深氏は1971年に『幼稚園では遅すぎる』という本を書きます。執筆の動機は資源に恵まれない日本が生き残っていくには、人材で勝負するしかない、優秀な人材を育てるためには教育力を高めなければならない、というものでした。

 本の内容の8〜9割は、いいことが書いてあるんです。お父さんも子育てに参加しなければならないとか、幼児はほめて育てろとかね。

ソニー創業者の井深大氏(写真:AP/アフロ)

 一方で首を傾げるような記述があるのも事実。「幼児がテレビコマーシャルを見続けると、情報処理能力が向上する」という主張がその典型例です。

 当時の脳科学ではまだ大脳皮質と大脳辺縁系のつながりについての研究が深まっておらず、早期に刺激を与えればシナプスが活性化し、どんなに頭が悪い子でも将来頭が良くなると真剣に考えられていたのです。

 井深氏は1969年に幼児開発協会を設立し、同協会が提唱するメソッドを応用する提携幼稚園が次々に誕生します。80年代に入ると少子化が本格化し、都市部では「儲けのタネ」として不動産会社が未就学児に対する早期教育事業に手を出し始めました。

 他にも「子どもの頭に懐中電灯を照らすと頭が良くなる」というトンデモなノウハウを広める通信教材を50万円で売り付ける業者も存在しました。