IGPI シンガポール CEO 坂田幸樹氏

「DXの最前線」というと米国や中国を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。だが、『デジタル・フロンティア 米中に日本企業が勝つための「東南アジア発・新しいDX戦略」』(PHP研究所)を著したIGPIシンガポールCEOの坂田幸樹氏は、「日本は、東南アジアのDXにこそ学ぶべき」と語る。坂田氏によると、近年東南アジアの国々ではDX化の進展が目覚ましく、社会インフラや経済構造が大きな変貌を遂げているという。東南アジアで一体何が起きているのか、日本にとってどのような点が参考になるのか、坂田氏に話を聞いた。前編、後編の2回にわたってお届けする。

IGPI坂田幸樹氏が登壇するLIVEウェビナーの配信が決定!
日本のDXは東南アジアから学べ!~IGPI坂田幸樹氏が語る「新時代のDX」
【LIVEウェビナー】10月2日(月)15時~16時配信(参加無料・事前登録制)

▶▶詳細・参加登録はこちら
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/76801

日本に合うDXは米中型より「東南アジア型」

――著書『デジタル・フロンティア』では、東南アジアのDX事例を紹介しながら、「日本は東南アジアのDXから学ぶべき」と語っています。なぜ、東南アジアのDXが参考になるのでしょうか。

坂田幸樹氏(以下、敬称略) 東南アジアのDXは、各地域に存在する店や人を対象とした「半径5キロ圏内の問題解決」というべき事例が多く、周囲のコンセンサスを取りながら意思決定を進める日本の組織風土とは相性がよいと考えたからです。

坂田 幸樹 /IGPI シンガポール取締役CEO

経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPI シンガポール取締役CEO。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)、IT ストラテジスト。大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト& ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPI シンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。

 東南アジアでは、身近な問題を解決することで、より上位のオペレーション改善、そして戦略の見直しやイノベーションにまで昇華させるボトムアップによる変革の例が多く見られます。米中のイノベーションの事例の多くはトップダウンで進められることが多く、日本では実現が難しいものもあるため、日本に合ったスタイルを選ぶことが大事だと思います。

 今回の著書に記したことは、私が10年ほど東南アジアで暮らしながら、事業を展開する中で感じたことです。東南アジアには日本で生かせる「現場発のイノベーションのヒント」が多数あると感じています。

「どのようにして意思決定が行われているのか」という視点は、DXを進める上で非常に重要です。なぜなら、DXの本質が「トランスフォーメーション=変革」にあるからこそ、デジタル化やオペレーション改善に終止するのではなく、企業や社会の改革を目指す必要があるからです。

 トップダウンの風土が組織に浸透していれば、「明日からこの方法で進めます」と命令が出ればすぐ変わります。しかし、ボトムアップで物事が進む日本や東南アジアでは、そうはいきません。

 トップダウンで進められないのであれば、現場でデータを集めて、そのデータをもとに社会を変えていく、という進め方になります。ですから、米中のようなイノベーションを目指すよりも、東南アジアのやり方を参考にしたほうが、成功に近づけると思うのです。