取材・文=吉田さらさ
海上交通の安全及び、海産物の恵みをもたらす
もう師走も半ば、2024年も残り少なくなってきた。今年は辰年で運気アップのパワーをいただける龍神様に守られた年のはずであったが、なぜか年頭から能登半島地震や日航機炎上事故などよろしくない出来事が続き、個人的にもいまひとつ調子が悪かった。
そんな中、はるばる福岡に出かけ、志賀島に鎮座する志賀海神社に詣でることができたのは幸いだ。ここは「龍の都」と呼ばれる特別な神社なので、何とか辰年のうちにお参りしておきたいと願っていたのである。
国宝の金印が出土したことでも有名な志賀島は、福岡市中心部から地続きで、車やバスでも行ける。その場合は海の中道と呼ばれる砂州上の道を走って行くのだが、両岸は青い海で、まるで沖縄かフロリダにでも来たような心地がする。福岡港からフェリーで行く方法もあり、これも都会的な水際風景を眺めながらの快適なクルーズだ。どちらを選ぶかはお好み次第だが、いずれにせよ、島の南端の港あたりに到着する。
港の近くに鳥居があり、ここから志賀海神社への参道が続いている。両側にはレンタサイクル屋、カフェなどいくつかの店舗もある。中ほど左側にある中西食堂のサザエ丼は志賀島に来たらぜひ食べてみるべきとのことだが、今回は時間がないので、先を急ごう。
やがて再び鳥居があり、手前に「御潮井」と呼ばれる砂が入った箱がある。この砂を左、右、左と軽く振って心身を清めるのがこの神社の慣わしだ。お清めを済ませたら石段を上がる。途中、左手にある末社、山之神社を見逃さないで欲しい。大山津見命が祀られ、オコゼやアラカブ(カサゴ)など顔つきが面白い魚をお供えすると、それを滑稽に思われて、快く願いごとを叶えてくださるとか。ご利益は縁結び、夫婦円満、開運など。
石段を登り詰めると、ふいに視界が開けて立派な楼門が見え、そこをくぐった先に立派な本殿がある。左殿に中津綿津見神、中殿に底津綿津見神、右殿に表津綿津見神が鎮座。海の底、中、表を守る綿津見三神として崇敬され、海上交通の安全及び、海産物の恵みをもたらすと信じられてきた。伊邪那岐神が黄泉の国から逃げ帰って来て禊をした際に生まれたため禊祓いの神とされており、不浄や災厄を祓うご利益もあるという。
また、水と塩(潮)を支配し、人の命や生活の吉凶も支配するとも言われる。本殿の前にも清めの砂が入った「御潮井」が備えられており、なるほどそういうことかと納得する。
この三神を古くから奉斎してきたのは、志賀島を拠点として大陸との交易を広く行ってきた安曇族である。この連載の第38回(2024年8月)で取り上げた長野県安曇野の穂高神社も、この安曇族が穂高岳の神と綿津見神、先祖神などを祀ったものである。日本各地にある「しか」、「あつみ」、「あど」などと読む地名を持つ場所(愛知県渥美半島、滋賀県安曇川など)は、この安曇族に関係があるとも言われる。安曇族は海運で大きな力を蓄え、綿津見三神とともに広く各地に広まっていったのだ。